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PIDJ

はじめに

原発性(先天性)免疫不全症(primary immunodeficiency, PID)は、免疫系において重要な役割を果たしている分子の遺伝子異常により、種々の病原体に対する易感染性を示す疾患群であり、現在では160以上の責任遺伝子が知られている1, 2)
多くの場合、単一遺伝子の障害によるものであるため、その解析は複雑なヒトの免疫系の理解にもつながり、基礎免疫学への貢献も大きい上に、患者数は多いが病因が多岐にわたる疾患(感染症、自己免疫疾患、がん、神経疾患など)の理解にもつながる。

近年、PIDの概念は拡大しており、「免疫制御不全症」である、発熱を繰り返す自己炎症症候群や、自己免疫症状を合併する免疫制御異常症なども、原因遺伝子が判明したため、広義の免疫不全症としてとらえられている。また、HSV脳炎、重症肺炎球菌感染症など単一病原体の単回重症感染症もその原因が遺伝子異常にあることが明らかになり、PIDの疾患概念はさらに拡大する傾向にある3, 4)

こうした、PIDは、異なる遺伝子の変異により同様の症状を来す例がある反面、同じ遺伝子でも変異部位による症状や重症度の違いを示す例が知られているため、症例の集積とその解析が重要である。たとえば、CD40L欠損症(伴性劣性高IgM症候群)では、γグロブリン補充のみでは、10-20歳代に、クリプトスポリジウム感染に罹患し、胆管炎から肝不全、胆管癌となり、生命予後が不良であることが症例の蓄積により判明し、現在では造血幹細胞移植適応疾患であるとされている5)
また、Wiskott-Aldrich症候群(WAS)の軽症型(不全型)である、XLT(伴性劣性血小板減少症)では、生命予後は良好と考えられていたが、症例の蓄積により頭蓋内出血の頻度は重症型(古典型)WASと同等であり、10-20歳代にIgA腎症からの腎不全に来す例や、MDS合併例等も知られてきたため、造血幹細胞移植適応疾患の適応疾患ではないかと考えられるようになってきた6, 7)

このように登録症例の解析から、情報の共有化さらに治療の標準化をはかることも可能になるため、予後の向上にもつながると考えられる。

各国の現状

欧州では、2004年に欧州免疫不全症学会(ESID)がFreiburg大学にデータベースサーバーを設置し、web basedの登録システムを稼働した。その後、イタリア、フランスから全国規模のデータの移行がなされたこともあり、現在は全体で6000例近くの臨床データが登録されている。このデータは、権限設定により、閲覧可能範囲が決められており、一部のデータは製薬企業も見ることが可能になっているのが特徴である8, 9)

米国では、USIDnetという組織が立ち上げられ、データベースについてはESIDからライセンスを買った形で、同等のシステムをアメリカ国内で立ち上げている。ユニークなのは患者由来の細胞株を研究用に1細胞株$100で販売している点である(2008年7月現在12疾患36細胞株)(http://www.usidnet.org)。

日本では、PIDの登録は30年前から行われており、患者登録は1395例(1.1例/10万人、2007年現在)にのぼるが、小児科学会地方会をはじめとする学会報告を行った医師に登録を依頼するという方法をとってきたため10)、他国に比べ、把握されている割合が低くなってしまった。ちなみに、各国の10万人 あたりのPID患者数(登録患者数)をみると、スペインが6.5例(2592例)、チェコが5.5例(577例)、フランスが3.2例(1953例)となり、人口から推定すると、日本では、約4000例以上が把握されていないと考えられる。
そこで、2006年度より、厚生労働省原発性免疫不全症候群に関する調査研究班(以下、研究班)は、基礎免疫学研究施設である理化学研究所免疫アレルギー科学総合センター(以下、RCAI)、ゲノム解析施設であるかずさDNA研究所と共同研究を開始し、臨床情報の中央化、臨床検体解析/保存の中央化、遺伝子解析の中央化、を通し、臨床診断、治療のみならず、基礎免疫学へも貢献する枠組みを開始した。そのハブとなるシステムが、PIDJ (Primary Immunodeficiency Database in Japan)である。

PIDJの概略

この仕組みでは、全国の一般病院の医師が研究班のPID専門医に、症例の診断、治療について相談が可能であり、同時に症例の登録と蓄積がなされていく(図1)。

  • 1. 易感染性を呈しPIDが疑わしい患者、あるいはPIDと診断されている患者を診療した場合、主治医はPID専門医に相談するために、PIDJホームページ(http://pidj.rcai.riken.jp)にアクセスし、「患者相談フォーム」に簡単な相談内容を記載する(図3)。
  • 2. 研究班のPID専門医は内容を見てRCAIに医師ID申請を行う。IDを受け取った主治医は、患者臨床データを入力しオンラインで患者登録する(図2)。患者個人情報は、この時点で匿名化される。専門医は必要に応じ、考えられる診断、必要な検査、治療などのアドバイスをする。
  • 3. 主治医は患者に対し説明し、同意が得られた場合、血液検体などを指定された期日にRCAIあるいは研究班施設に送付する。
  • 4. RCAIではFACS解析、細胞保存、DNA、RNA抽出を行う。
  • 5. かずさDNA研究所では想定される疾患に対する候補となる既知遺伝子すべてについてゲノムDNAシークエンスによる遺伝子解析を行い、専門医に報告する。現在までに準備した既知遺伝子は100以上にのぼる。
  • 6. 専門医は、結果と診断および治療について主治医に情報提供する。以上のような流れにより、主治医は、分子的診断を行い、専門医との連携を行うことが可能になり、患者には、診断、治療の迅速化、標準化をもたらすことができる。また、研究班施設は、貴重な患者情報が前方視的に収集することが可能になる。臨床検体が中央化することで、RCAIの基礎免疫学者と共同研究を容易に行うことができるようになる。さらに、臨床データを用いたPID診断支援ツールの開発やbioinformatics研究も行うことが可能である。かずさDNA研究所ではDNA診断のためのknow-howと新技術の開発を行うことができるようになる。このように、PIDJは関係者それぞれに利点があるシステムである。

患者会ー免疫不全つばさの会について

このPIDJプロジェクトは、さらに日本のPID患者と家族の会である、「つばさの会」とも連携をしている。つばさの会は、1991年11月に発足した患者会であり、会員向けの勉強会の開催などを通して、会員相互の交流や医師などへの相談、情報提供を行ってきた。また社会的にも、PIDの特定疾患への認定や、慢性肉芽腫症に対するインターフェロンガンマ療法への保険適応、ガンマグロブリン療法の用量拡大などへ向けて厚労省への働きかけなどの活動を行ってきた。2007年時点で145家族が会員として参加していたが、より多くの患者、家族への医療情報の提供、交流の場の提供、一般市民および社会への知識の普及、啓発などの社会活動を行い、患者と家族のQOL向上を支援する活動を進めるため、2008年3月にNPO法人「PIDつばさの会」として設立総会を行い、東京都に申請を行った。患者(家族)と医師がともに理事として参画しており、まさにつばさの両翼として患者のQOLを支援していく会である。PIDつばさの会のホームページはRCAIのwebサーバーに設置してあり、ここから、入会の受付も行っている(http://pidj.rcai.riken.jp/tsubasa/tsubasa)。

2008年1月には、アメリカの免疫不全症患者支援NPO団体であるJeffrey Modell Foundation(JMF)(http://www.jmfworld.com)のつくる、全世界にひろがるPID専門家のネットワークの一つである、RIKEN-JMF PID診断研究センターをRCAI内に設立した(竹森俊忠センター長)。これに伴い、JMFとPIDつばさの会も連携をスタートしたところである。

まとめ

  • PIDの登録システム、データベースであるPIDJを稼働した。
  • データベースはセキュリティーサーバーに連結可能匿名化データを入れる安全な形式である。
  • 全国の一般医からも気軽につかっていただける電子紹介状として利用可能である。
  • 経時的なデータ蓄積も行えるため、患者の全体像の把握が容易である。また、専門医によるカンファレンスも可能である。
  • ESID、USIDnetのデータベースとの互換性をとっており、国際共有も可能である。
  • 臨床検体解析、保存の中央化、遺伝子解析の中央化もスタートした。
  • この取り組みにより、PIDJ患者の診断、治療、予後の改善に貢献することが期待される。

図1:PIDJプロジェクトの仕組み

図1:PIDJプロジェクトの仕組み

図2:PIDJ患者相談フォーム

図2:PIDJ患者相談フォーム

図3:PIDJ患者基本情報入力画面

図3:PIDJ患者基本情報入力画面

参考文献

  • 1) Geha RS, Notarangelo LD, Casanova JL, et al.: Primary immunodeficiency diseases: an update from the International Union of Immunological Societies Primary Immunodeficiency Diseases Classification Committee. J Allergy Clin Immunol 120: 776-794, 2007
  • 2) Ochs HD, Smith CIE, Puck J. Primary immunodeficiency diseases : a molecular and genetic approach. 2nd ed. ed: Oxford ; New York : Oxford University Press, 2007.; 2007.
  • 3) Casanova JL, Abel L: Primary immunodeficiencies: a field in its infancy. Science 317: 617-619, 2007
  • 4) Marodi L, Notarangelo LD: Immunological and genetic bases of new primary immunodeficiencies. Nat Rev Immunol 7: 851-861, 2007
  • 5) Levy J, Espanol-Boren T, Thomas C, et al.: Clinical spectrum of X-linked hyper-IgM syndrome. J Pediatr 131: 47-54, 1997
  • 6) Imai K, Morio T, Zhu Y, et al.: Clinical course of patients with WASP gene mutations. Blood 103: 456-464, 2004
  • 7) Imai K, Nonoyama S, Ochs HD: WASP (Wiskott-Aldrich syndrome protein) gene mutations and phenotype. Curr Opin Allergy Clin Immunol 3: 427-436, 2003
  • 8) Eades-Perner AM, Gathmann B, Knerr V, et al.: The European internet-based patient and research database for primary immunodeficiencies: results 2004-06. Clin Exp Immunol 147: 306-312, 2007
  • 9) Guzman D, Veit D, Knerr V, et al.: The ESID Online Database network. Bioinformatics 23: 654-655, 2007
  • 10) 岩田力: 原発性免疫不全症の分類とわが国におけるその頻度 (特集 原発性免疫不全症候群における最近の知見). 小児科 47: 3-16, 2006

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