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RAG1/RAG2欠損症

【監修】
金沢大学
谷内江 昭宏先生

原理・病態

 B細胞やT細胞は獲得免疫の主役として、生後に様々な抗原刺激を受けながら膨大で多様性に富むレパートリーを形成します。このような『免疫記憶』の多様性を生み出す分子は、一つはB細胞に発現する免疫グロブリン(Immunoglobulin; Ig)であり、もう一つはT細胞に発現するT細胞抗原受容体(T cell receptor; TCR)です。IgとTCRの発現には、これらをコードする遺伝子の再構成が必須であり、RAG (recombination activating gene) 1ならびにRAG2はこの過程で分子複合体として重要な役割を果たします。
 RAG1/RAG2完全欠損では抗原受容体遺伝子の再構成が行われないため、B細胞、T細胞がともに欠如し、NK細胞のみが検出される重症複合免疫不全症(B-- NK+ SCID)が発症します。一方、RAG1/RAG2の活性が残存するタイプの遺伝子変異(hypomorphic mutation)の場合には、部分的に残存するRAG活性により、クローンサイズの小さい、多様性が著しく制限されたB細胞とT細胞の分化が起こります。その結果、限られたT細胞クローンの著しい活性化と増殖、Th2に偏ったサイトカイン産生、さらにB細胞クローンによるIgE産生の亢進などが起こり、Omenn症候群と呼ばれる特徴的な臨床像を呈する免疫不全症が発症します(図1)

特徴・症状

 AG1/RAG2完全欠損症は他のSCIDと同様、成長障害、重症下痢、遷延する呼吸器感染などが初発症状となります。血清Igの著しい低下、NK細胞以外のリンパ球の欠如は特徴的な検査所見です。Omenn症候群は、1965年にOmennが最初に報告した常染色体劣性遺伝形式をとる稀な複合免疫不全症です。重症アトピー性皮膚炎様の、落屑を伴った紅皮症、頭髪の脱毛、全身リンパ節腫脹ならびに肝脾腫などの特徴的な症状を示します(図2)。血液検査ではしばしば著明な好酸球増加、リンパ球増加が認められ、免疫グロブリンの中でもIgGが低値を示すのに対して、IgEが高値を示すことも特徴です。原発性免疫不全症の原因遺伝子が次々と明らかにされる過程で、Omenn症候群のほとんどでRAG1 あるいは RAG2 に異常があることが明らかにされました
 Omenn症候群において見られる特徴的な臨床像は、自己応答性T細胞クローンの活性化と増殖を反映したものであると考えられています。したがって、T細胞分化障害をもたらすような遺伝子異常を背景にして自己応答性T細胞クローンの活性化、増殖が起これば、RAG異常症以外であってもOmenn症候群と極めて類似した臨床像を示す可能性があります。たとえば、RAG1/RAG2欠損によるB- SCID症例の一部で母親由来の T 細胞が児に定着(MFT; materno-fetal transplantation)しGVHD(graft versus host disease)を発症、いわゆるOmenn様症候群(Omenn like syndrome)の臨床像を示すことが知られています。さらに最近、TCR 遺伝子が再構成した後の修復過程に関連する酵素である Artemis の異常による免疫不全症が確認され、RAG 遺伝子異常以外のTCR 遺伝子再構成障害として注目されています。さらに、complete DiGeorge症候群、2nd-site mutationによるT細胞のクローン性増殖を伴うRAG欠損症例、IL-7受容体α鎖変異、NK細胞異常増殖を伴うX-SCID、ADA欠損症など、数多くの免疫不全症例で同様の病態が生じることが報告されています。これらの症例に共通する病態は、1)T細胞分化障害と胸腺からのナイーブT細胞流出(thymic output)の低下、2)Th2への著しい偏倚、3)中枢性ならびに末梢性トレランスの破綻による自己応答性エフェクター細胞の(クローン性)増殖、などです(図3)10
 Omenn 症候群は新生児期もしくは乳児期早期に発症し極めて予後不良であり、骨髄移植を施されない場合には不幸な転帰をとります。皮膚症状を始めとした臨床症状の発現が極めて早期である点(しばしば生下時から症状が認められる)、また著明なリンパ節腫脹が観察される点は SCID と異なります。Omenn 症候群では通常B細胞は著減しているものの、T細胞数は正常かむしろ増加し、免疫グロブリンではIgG、IgA、IgMは低値ですが、IgEのみ高値を示すなど、免疫不全症候群の中では特異な臨床所見を呈する疾患と言えます。このような臨床症状はしばしば重症アトピー性皮膚炎に類似する場合があり、注意を要します。特に、不適切な治療を受けているアトピー性皮膚炎では体重増加不良、皮膚病変の重症化、リンパ節腫大、低蛋白血症、著明な好酸球増加を合併するためOmenn症候群を疑われる場合があります(図1)。逆に、乳児期早期のOmenn症候群が難治性の重症アトピー性皮膚炎として治療されている場合もまれに経験します。  最近、RAG1/RAG2遺伝子変異がさらに多様な臨床像を示すことが明らかにされつつあります。CMV感染の重症化と末梢血TCRγδT細胞の異常増加を示す症例11)、12、多様な自己抗体が陽性となり、複合型の自己免疫疾患の病態を示す症例などが知られてきました13)、14。Omenn症候群も含めて、これらの特異な臨床像は一見多彩な表現型を示しています。しかしいずれも、RAG1/RAG2機能の部分欠損とそれに伴う多様性の制限、免疫制御機能の欠如を反映したものと考えることができます。繰り返す環境からのインパクトに対して、限られた機能を有する獲得免疫系が悲鳴をあげ、いびつで歪んだ形で、そして免疫制御による微調整(fine tuning)を受けることなく応答していることが推察されます。

診 断

 上記の特徴的な臨床症状(生後まもなくよりの湿疹様皮膚病変、リンパ節腫大、肝脾腫、易感染性等)、検査所見(好酸球増加、高 IgE、免疫グロブリン低値、Th2 サイトカイン優位、T 細胞のオリゴクローナルな増殖・異常活性化、B細胞の欠損あるいは著明な減少等)が診断の根拠となります15)。しかし、先に述べた様に疑わしい症例に関しては RAG 遺伝子異常の有無を検索することが必須となります。母由来 T 細胞の有無も検討する必要があります。Omenn症候群を含むT細胞分化障害を伴う原発性免疫不全症においては、胸腺低形成に伴う、thymic outputの著しい低下が特徴となります。したがって、TREC値の定量がスクリーニング検査として有用であることが示されてきました16)。 Thymic outputの低下は、フローサイトメトリー解析ではT細胞中のCD45RA陽性ナイーブ細胞の著しい減少として確認されます。Omenn症候群での末梢血T細胞表面抗原の解析では、CD45RO、HLA-DR、CD25などの活性化抗原の発現増強があり、CD4/CD8比はしばしば異常を示します(図3)17)18)。また、Omenn 症候群をはじめとした TCR 遺伝子の再構成障害を有する免疫不全症では、必ず TCR 多様性形成が障害されることから、フローサイトメトリーを利用した TCR Vβrepertoire 分布や、CDR3 サイズ分布の解析により TCR 構造の多様性を評価することが有用です(図4)。さらにArtemis などのDNA修復機構の異常を鑑別するためには、培養線維芽細胞を用いた放射線感受性試験が用いられています19)

治療・予後

 RAG1/RAG2異常症は、SCIDの代表例であり、特徴的な症状、検査所見を参考にしてできるだけ早期に診断することが重要です。特に、部分欠損症が示す多彩な臨床像については、十分に留意する必要があります。診断後は、合併する感染症の治療や免疫グロブリン補充などの適切な支持療法を行う必要があります。さらに、Omenn症候群では、ステロイドやシクロスポリン等の免疫抑制剤を適確に使うことにより、異常T細胞の増殖に伴う種々の症状をある程度緩和させることが可能です。しかし、骨髄移植あるいは末梢血幹細胞移植以外に感染症の長期コントロールや疾患の根本的治癒は期待できず、そのような治療が行われない場合には予後は極めて不良となります。
 SCIDに対する骨髄移植後の成績は概ね良好とされています。特にレシピエントの免疫能が異常であることからreduced intensity stem cell transplantation (RIST) が施行されることが多く、移植後のTCR多様性回復は驚くほど早いことが観察されます20)。したがって、Omenn症候群においては早期診断を行い、immunological emergencyとして血液幹細胞移植を早急に実行することができるかどうかが治療の成否を決定します。多くの場合、Omenn症候群症例は診断確定時にすでに重症感染症や成長障害を合併しています。他の重症複合免疫不全症と同様、感染症の予防と早期診断、治療がその後の予後を決定します。一方で、Omenn症候群の特徴的な病態形成にはその背景となる遺伝子異常に加えて、感染症病原体による抗原刺激、抗菌剤治療に伴う常在細菌叢の変化と免疫制御機構の破綻などが複雑に絡み合っていることが示唆されています。これらの複雑な病態を把握し、適切に感染をコントロールすると同時に巧みな免疫抑制を行うことが必要となります。

参考文献

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図1 RAG1/RAG2異常症の発症病態

RAG1/RAG2異常症の発症病態

正常では膨大な多様性を有するT細胞ならびにB細胞クローンが形成される(左図)。
RAG1/RAG2完全欠損では、B/Tリンパ球の分化が欠如し、B- T- NK+ SCIDとして発症(中央)。Omenn症候群ではRAG活性の低下により、B/Tリンパ球の分化が強く制限され、ごく限られたT細胞クローンが増加する(右図)。

図2 A;Omenn 症候群の臨床像 B;重症AD乳児

A;Omenn 症候群の臨床像 B;重症AD乳児

脱毛、紅皮症、鱗屑、腋窩リンパ節腫脹などが認められる。

図3 末梢血リンパ球表面抗原発現

末梢血リンパ球表面抗原発現

重症AD(上段)ならびにOmenn症候群(下段)。数字はリンパ球中比率(%)を示す。赤枠は活性化T細胞、メモリーT細胞およびB細胞を示す。

図4 RAG1/RAG2異常症におけるTCR多様性

RAG1/RAG2異常症におけるTCR多様性

Omenn 症候群では特定のVβrepertoire の偏った増加が検出される(左図)。
さらにCDR3サイズ分布解析では、正常に比べてCDR3ピーク数の著しい減少が特徴的に認められる(右図)。

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