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X連鎖重症複合免疫不全症

【監修】
仙台医療センター
久間木 悟先生

1.X連鎖重症複合免疫不全症とは

X連鎖重症複合免疫不全症(X-SCID)は重症複合疫不全症の中で最も頻度が高くその約半数を占め、およそ10万人に1人の割合で発症します。遺伝形式は名前に示される通りX染色体に関係しており、男児だけが発症します。この病気のこどもたちは生まれつき免疫系が働かないため乳児期から感染症にかかりやすく、かつ重症化しやすい状態にあります。どうしてそのようなことが起こるかに関してもう少し詳しく説明いたしますと、患者では免疫系で中心的な役割を果たしているT細胞とナチュラルキラー細胞(NK細胞)がほとんど存在しないことと、侵入してきた病原体に対する抗体を作るB細胞も機能しないことがあげられます

図1.X-SCID患者リンパ球の障害部位

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ですから、いったん感染症にかかるとどんどん悪くなっていきます。このように患者では生まれつき免疫系が働きませんので、通常の抗生物質や抗真菌剤による治療だけでは良くならず、骨髄移植などの根本的な治療を受けなければ乳児期に亡くなってしまいます。

2.いつ病気が起こってくるのでしょうか

生まれてきたばかりの赤ちゃんは、胎内にいる間に母親から受け取った抗体(IgG)で感染症から守られています。しかしこのIgGも生後2~4ヵ月すると減ってしまい、自分で抗体を作らなければ感染を防げなくなります。しかし患者は自分で抗体を作ることができないため、母親由来のIgGが底をつく頃から慢性の下痢、間質性肺炎、持続性カンジダ症などの重い感染症を繰り返すようになります。健康な人では問題とならないようなアスペルギルス、カリニなどの毒力の弱い病原体やBCGを含めた生ワクチン株による感染症もよく経験されます。

3.病気はなぜおこってくるのでしょうか

X-SCIDはX染色体に位置するγc鎖遺伝子の異常で起こってきます。γc鎖は、リンパ球の発生・分化・機能に大きな影響を及ぼすインターロイキンという物質を細胞の表面で受け取る受容体で、細胞の中へシグナルを伝える働きを持っています。

図2.γc鎖を介したシグナル伝達

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γc鎖が機能しない場合にはインターロイキンの作用が細胞内へ伝わりません。その結果γc鎖を受容体として使用しているインターロイキン-2(IL-2)、IL-4、IL-7、IL-9、IL-15、IL-21の6種類のインターロイキンすべてのシグナルが伝わらなくなり、重い免疫不全状態となります。これらのインターロイキンのうちT細胞の発生にIL-7が、NK細胞の発生にIL-15が重要な役割を果たしていることがわかってきました。また、B細胞の抗体産生にはIL-4とIL-21が深く関わっていると考えられています。

4.検査結果の特徴

X-SCID患者ではリンパ球数が少ないことが多く、特にT細胞、NK細胞は血液中にほとんど認められません。また、T細胞が作られる場である胸腺は小さく、胸腺から出てきたばかりのT細胞中に存在するT細胞受容体切除サークル(TRECs)は検出されません。「重症複合免疫不全症患者ではTRECsが検出されない」ということを応用して米国でマススクリーニングが開始されました。最近の研究では、新生児期に診断がつき早期に移植を行なった患者さんほど予後が良いことが示され、このマススクリーニングが注目がされています。
また、患者ではB細胞が存在しても抗体を作ることができません。生直後は母親由来のIgGがあるため、患者でも見かけ上IgG値が正常値を示すこともあります。しかしIgMやIgAは低値のことが多く2~4ヵ月経つとIgG値も低値となってしまいます。
なかには母親由来のT細胞が血液中に存在するために診断が難しい症例もあります。

これまでにX-SCID患者のγc鎖変異が350例近くで同定されています。http://research.nhgri.nih.gov/scid/

5.治療法について

X-SCIDに対する根本的な治療法として骨髄移植などの造血幹細胞移植が行なわれていますが、最近では遺伝子治療臨床試験の報告もみられるようになりました。しかし、遺伝子治療では白血病発症という重大な副作用があり、まだ一般的とは言えませんので、ここでは造血幹細胞移植を中心に説明します。
一般的に骨髄移植、臍帯血移植などの造血幹細胞移植では移植前処置といって抗癌剤や放射線で患者の骨髄を破壊する処置を行なってから造血幹細胞を移植をします。

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そうしないとドナーの造血幹細胞は骨髄に着くことができません。しかし、X-SCID患者では生まれつき免疫が働かないため、移植された細胞が排除されにくいという特徴があります。このため組織適合抗原であるHLAが一致した同胞から造血幹細胞を移植する場合には、前処置無しでそのまま入れても造血幹細胞が骨髄に着くのです。しかし、HLAの合う兄弟がいない場合には造血幹細胞は着きにくく、約半数の患者で生涯にわたって免疫グロブリンを入れ続ける必要が出てきます。さらに前処置無しでは長期的にT前駆細胞もやがて枯渇し、再び免疫不全の状態に陥ってしまう可能性が指摘されています。一方、患者は移植前から重い感染症にかかっていることが多いため、骨髄を破壊するような強い前処置を行えば感染症が悪化し生命が危機に曝される可能性があります。これらの問題点を克服するために最近骨髄非破壊的移植と呼ばれる移植法が行なわれるようになってきました。

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この移植法は従来のものに比べて用いる抗癌剤や放射線の量が少ないため副作用の発現率が低くなることが期待されています。現在、日本でも厚生労働省原発性免疫不全症班会議のメンバーが中心となり、この新しい造血幹細胞移植法について検討を行なっているところです。
(http://pidj.rcai.riken.jp/medical_guideline100625.html)

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