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アデノシンデアミナーゼ(ADA)欠損症

【監修】
北海道大学
有賀 正先生

基本病因、発症機序

アデノシンデアミナーゼ (ADA) 欠損症 (OMIM#102700) は原発性免疫不全症 (PID) であると同時に先天性代謝異常としての側面をもつ常染色体劣性遺伝疾患である。ADA欠損症は20番染色体q13.11にあるADA遺伝子の変異が病因で発症する。歴史的には1972年にGiblettが赤血球中のADA酵素活性のスクリーニングを行い、偶然にADA欠損症と重症複合免疫不全症 (SCID) の関連を発見した。

基本病態

ADAはユビキタスに発現している分子であるが、特にリンパ球系細胞でその発現が強い。ADAはアデノシン、デオキシアデノシンをそれぞれイノシン、デオキシイノシンへ代謝するプリン代謝経路の酵素である(図)。

図 核酸代謝経路におけるADAの役割

ADA: adenosine deaminase, PNP: purine nucleoside phosphorylase,
HGPRT: hypoxanthine guanine phosphoribosyltransferase

先天代謝異常症の特徴として、欠損しているADA酵素の基質やリン酸化した基質が蓄積し、それらの中で特にデオキシアデノシンがリン酸化されたdAXPが細胞毒性に働いてさまざまな障害を引き起こす。蓄積する代謝産物が主に免疫細胞、特に未熟なT細胞に対して細胞毒として働き、進行性に免疫不全状態を招くと考えられている。ADA欠損症の多くは SCID として発症するが変異によっては酵素活性がある程度残存し、発症が乳児期以後の重症度の低い免疫不全を示す例もある。T細胞、B細胞、NK細胞全て減少するがT細胞の障害がより重篤である。

臨床症候

ADA欠損症は SCID の約15%を占める。T, B, NK 細胞が何れも著しく減少しているタイプ:T-B-NK-SCIDとして分類されているが、重症度はさまざまであり、一見症状を示さないものも含めて臨床的に4群に分けられる(表1)。

表1. ADA欠損症:臨床的重症度

SCID 生下時より高度のリンパ球減少あり。1歳未満で診断。
Delayed onset 急速に臨床的悪化を示す。1-10歳までに診断。
Late onset 臨床的悪化は緩徐。10歳以上で診断。
Partial ADA deficiency 正常の免疫能。赤血球では酵素の低下。毒性代謝産物高値。

重症度は ADA 遺伝子の変異の種類に基づく ADA 酵素残存活性から説明されている(表2)。

表2. ADA遺伝子変異とADA活性の関係(大腸菌E.Coli Sf3848による発現実験)

34 adenosine deaminase alleles grouped by activity observed following expression in E. coli Sθ3834*.
Allelle group Mutations ADA activity expressed precent of wild type(range)
0 Deletions, nonsense 0
I H15D,H17P,G74V,G74D,A83D,R101L,R101Q,R101W,P104L,L107P,
G140E,R149W,R156C,R211H,G216R,E217K,R235Q,S291L,A329V,E337del
0.015±0.02(0.001 to ~0.07)
II V129M,R156H,V177M,A179D,Q199P,R253P 0.11±0.04(~0.06 to 0.17)
III G74C,P126Q,R211C 0.42±0.19(0.27 to 0.63)
IV R142Q,R149Q,A215T,G239S,M310T 8.3±11.3(1.03 to 28.2)
spl Splicing Variable

Hershfield, Current Opinion in Immunology 2003, 15:571–577 より

他の SCID と同様にあらゆる病原体に対して易感染性を示し、重篤な細菌、真菌、ウイルス、日和見感染などを発症し、慢性の下痢による体重増加不良を示す。免疫不全症以外の症状として約半数の症例で骨幹端の異常(特に肋骨)を認め、肝酵素の異常、まれに発達の遅れやけいれんなどの神経症状も報告されている。

診断のための臨床検査

ADA 欠損症は通常著明なリンパ球減少の検出がきっかけとなって SCID として診断される。前述のようにT, B, NK 細胞が何れも著しく減少しているが、SCIDでないタイプではリンパ球の減少が進行性に認められる。胸部X 線写真では SCID 共通の胸腺陰影の欠損の他に、肋骨端の拡張、肩甲骨の変形を約半数に認め、他の原因による SCID との鑑別に役立つことがある。診断は血液細胞中のADA酵素活性が著減/欠損し、アデノシン、デオキシアデノシン、dAXPなどが蓄積していることで行われ、最終的には遺伝子解析で確定される。

治療

典型的な ADA 欠損症では、SCID としての緊急的な根治治療を計画し、実行することが生命予後に直結する。根治治療実施までに既存する感染症の治療とあらゆる病原体に対する感染予防が重要である。根治治療としては他の原因による SCID 同様に造血幹細胞移植がまず想定されるが、緊急性の面から骨髄バンクドナーからの移植は現実的ではない。ドナーは HLA一致同胞が理想であり、臍帯血バンクからの移植も増加しているが、ハプロ一致の親からの移植は現状ではあまり成績が良くない。造血幹細胞移植の際に前処置をどのようにするかが当面の課題である。本疾患特有の治療にポリエチレングリコール (PEG)-ADA酵素補充療法があげられる。安全で有効な治療法であるが、重症タイプには効果が不十分であること、経済的負担が大きいことなどが問題で、我が国では2症例のみが実施されている。また本疾患は遺伝子治療の理想的な候補疾患であり、実際に人に対して初めて遺伝子治療が臨床応用された疾患として有名である。初めての遺伝子治療は、1990年、NIHのグループがレトロウイルスベクタ−を用い、末梢血T 細胞を標的として本疾患患者に実施した。酵素補充療法との併用であったが、一定の効果を示している。その後、いくつかのグループが根治的効果を期待して造血幹細胞を標的とした遺伝子治療を酵素補充療法下で実施したが、効果を認めなかった。2001年、イタリアのグループが酵素補充を中断し、さらに少量のブスルファンを使用した前処置を条件として実施し、初めてその有効性を認めている。北大グループでも1995年に末梢血 T 細胞を標的とした治療を、2005年には造血幹細胞を標的としてブスルファン等は使わず、酵素補充なしで遺伝子治療を実施して一定の効果を確認している。これまでADAに対する遺伝子治療では他の疾患でみられたような白血病様の副作用の報告はないが、長期的な評価が必要である。

予後

ADA欠損症はSCIDとしての病型が多いため、他の原因のSCID同様に根治的な治療介入が速やかに行われなければ予後はきわめて悪く、1歳までに死の転帰をとることが多い。他の病型のADA欠損症も免疫不全が進行性に重篤となり、何らかの根治治療が必要となる。Partial ADA 欠損症は臨床症状を示さないとされているが、長期的な予後は不明である。

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