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重症先天性好中球減少症

【監修】
広島大学
小林 正夫先生

原理

重症先天性好中球減少症(Severe Congenital Neutropenia、SCN) は慢性好中球減少症、特に末梢血好中球数が200/µl未満、骨髄像で前骨髄球、骨髄球での成熟障害、生後より反復する細菌感染症を臨床的特徴とする遺伝性疾患である。本症は重症細菌感染症を反復することから、乳幼児期に死亡する例が多かったが、1990年代のG-CSFの開発と本症への臨床的有効性は本疾患の長期生存を可能とした。1999年に好中球エラスターゼ(Neutrophil elastase、NE)をコードするELANE遺伝子のヘテロ接合性変異が周期性好中球減少症とSCNの約60%で同定され、その後も10種類以上に及ぶ種々の責任遺伝子が明らかにされている。表1にSCNの分類を示すように責任遺伝子は多様であり、SCNは慢性好中球減少を共通の表現型とした疾患群の総称である。

診断

著明な慢性好中球減少症(好中球絶対数は200/µl未満)を認め、生後早期から皮膚感染症、口内炎、肛門周囲膿瘍、気道感染症を反復し、肺炎、敗血症などの重症感染症を合併する。感染症を反復することから血液検査での慢性好中球減少を認めれば本疾患群を疑うことは容易である。臨床的な確定診断は骨髄像での骨髄顆粒球系細胞の正形成から低形成所見と前骨髄球、骨髄球での成熟障害を認める。骨髄像において後骨髄球、桿状核好中球を認めないことは、同年代で多くみられる乳幼児自己免疫性好中球減少症の骨髄像との鑑別に大切な所見である。また、表1に示すように種々の疾患や症候群が混在するので、てんかんを伴う中枢神経系症状、低血糖などの代謝異常、先天性心疾患などの好中球減少以外の症状にも注意を払うことが重要である。最終的には遺伝子検査を行い、責任遺伝子を明らかとすることで、確定診断が可能となる。本疾患群における遺伝子検査は広島大学小児科で行っている。

臨床経過と治療法

乳児期早期から重症細菌感染症を反復するので、感染症に対する迅速かつ適切な抗菌薬治療を行う必要がある。SCNの診断がなされたら感染症の予防としてST合剤(0.1 g/Kg)の内服とイソジン含嗽による口腔内ケアが必要である。時に真菌感染予防に抗真菌薬も投与する。口内炎の反復と慢性歯肉炎は必発の症状なので、小児歯科医との連携による口腔内ケアは重要である。慢性歯肉炎の悪化は永久歯の維持を困難にする場合があるので、長期予後として注意が必要である。抗菌薬等で感染症のコントロールが困難な場合や、慢性歯肉炎が悪化する症例ではG-CSFを使用して好中球数を維持する必要がある。G-CSF投与は他の疾患で使用される投与量より高用量となるので、2-5 µg/Kgから開始し、末梢血所見や臨床症状を考慮しながら増量していく。症例によって好中球出現に要するG-CSF量、投与間隔は異なるが、上記の量を週4-5回程度皮下注射する。2010年から自己注射が認可されている。感染症併発時には連日投与をすることが望ましい。G-CSF投与による最も重要な問題は骨髄異形成症候群(MDS)、急性骨髄性白血病(AML)への移行である。欧米でのSCN登録事業から明らかにされているデータから、G-CSFを8 µg/Kg以上投与されている症例では有意にMDS/AML移行例が多く、10年以上の投与で40%の症例がMDS/AMLを発症している。平均では10年間投与で約10%の症例がAMDS/AML移行の危険性がある。
現段階での根治療法は造血幹細胞移植である。MDS/AML移行後の造血幹細胞移植の成績は極めて不良であることから、G-CSF投与が必要な症例において、どの時期で造血幹細胞移植を行うか、明確な指標はないが造血幹細胞移植を視野において治療を継続しなければならないであろう。近年は骨髄非破壊的前処置による移植が中心となっており、移植の治療成績は向上してきている。

最新情報

本疾患群で種々の遺伝子異常は明らかとなってきたが、好中球減少となる病態は不明な点が多い。ELANE変異SCNにおいてはミスフォールディング(タンパク質の折りたたみ異常)病の可能性、ELANE異常に伴った好中球エラスターゼ(NE)のtrafficking障害でのNEの細胞内局在の変化、骨髄系細胞の分化に関与する転写因子のひとつであるの発現低下に伴ったアポトーシス亢進などが報告されている。HAX1遺伝子異常は、1956年にKostmannが常染色体劣性遺伝形式を示す遺伝性好中球減少症として第一例を報告した疾患である。2007年に本疾患がHS-1-associated protein(責任遺伝子:HAX1)の欠損により起こることが明らかにされた。HAX1は全身に普遍的に発現する分子で、主にミトコンドリア内膜に存在しアポトーシスを制御する蛋白の一つである。全例でホモ接合性変異が認められ、Kostmann症候群の家系ではQ190X変異が同定されている。HAX1欠損症の頻度は不明であるが、本邦における解析ではSCN患者の20%程度でHAX1欠損が同定され、R86X変異が好発変異であった。HAX1欠損症の一部で、好中球減少症以外に発達障害、神経学的異常(精神運動発達遅滞、難治性のけいれん発作)を合併する特徴がある。

表1 重症先天性好中球減少症の分類

疾患 責任遺伝子 遺伝形式 特徴的所見
1) 骨髄顆粒球系産生異常      
ELANE変異に伴うSCN ELANE AD MDS/AML
HAX1欠失に伴うSCN(Kostmann症候群) HAX1 AR MDS/AML, 精神運動発達遅滞
GFI1変異に伴うSCN GFI1 AD B, Tリンパ球異常
周期性好中球減少症 ELANE AD 周期的好中球減少
特発性好中球減少症 不明 不明 特になし
2) リボゾーム機能障害による好中球減少症      
Shwachaman-Diamond症候群 SBDS AR 膵外分泌機能不全, MDS/AML, 骨幹端軟骨異形性
Dyskeratosis congenita DKC XR 爪脆弱化, 網目状皮膚色素沈着, 白斑症, 骨髄低形成
3) 顆粒球輸送障害      
Hermansly-Pudlak syndrome type 2 AP3B1 AR 部分白皮症, 低身長, 血小板機能異常
Chediak-Higashi症候群 LYST AR 部分白皮症, 走化能異常, NK細胞障害活性低下
Gricelli syndrome type 2 RAB27A AR 部分白皮症, 血小板減少, T/B/NK細胞機能異常
MAPBPIP変異に伴う先天性好中球減少症 MAPBPIP AR 部分白皮症, 低身長, IgM低下
4) 免疫異常に合併する好中球減少症      
高IgM症候群(HIGM1, HIGM3) CD40L/CD40 CR/AR IgG, IgA, IgE低下, IgM増加
WHIM症候群 CXCR4 AD myelokathexis, IgG低下, 疣贅
WASP変異に伴うSCN WAS XR 単球減少, 血小板数正常
Reticular dysgenesis 不明   重症複合型免疫不全
5)代謝異常等に合併する好中球減少症      
糖原病Ib型 G6PT1 AR 低血糖, 肝腫大, 発達遅滞
G6PC3異常 G6PC3 AR 先天性心疾患(心房中隔欠損症), 泌尿生殖器異常, 静脈拡張
Barth症候群 TAZ XR 拡張型心筋症, 骨格筋障害
Pearson症候群 ミトコンドリアDNA異常   膵外分泌機能異常, 汎血球減少
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