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高IgE症候群

【監修】
東京医科歯科大学
峯岸 克行先生

高IgE症候群は、1)黄色ブドウ球菌を中心とする細胞外寄生細菌による皮膚膿瘍と肺炎、2)新生児期から発症するアトピー性皮膚炎、3)血清IgEの高値を3主徴とする免疫不全症である。
多くの症例で特有の顔貌、脊椎の側弯、病的骨折、骨粗鬆症、関節の過伸展、乳歯の脱落遅延などの骨・軟部組織・歯牙の異常を合併する。
多くは散発性であるが遺伝性があるものもあり、骨・歯牙の異常を合併する1型の高IgE症候群は常染色体優性遺伝をとることがあり、ウイルス感染症に頻回罹患する2型高IgE症候群は常染色体劣性遺伝を呈することがある(表1)。

原理

1)1型高IgE症候群

1型の高IgE症候群の原因はSTAT3の変異である。
突然変異はSTAT3分子の片アレルのみで起こり、DNA結合領域とSH2領域に集中し、1アミノ酸置換または小さな欠失である。
STAT3の変異は、機能的にはドミナントネガティブ、すなわち片アレルに存在するだけで、もう一方の正常のアレルの機能を阻害するように働く。
変異には3個のホットスポットがあり、コドン382のアルギニンがトリプトファンまたはグルタミンに置換するもの,コドン463のバリンが欠失またはメチオニンに置換するもの、コドン637のバリンがメチオニンに置換するものを合計すると全体の60%を占める(図1)。
当初は常染色体優性遺伝する疾患と考えられていたが、原因遺伝子の同定により、90%以上の症例で新規の突然変異により散発性に発症することが明らかになった。
本症候群の臨床症候は、1)細胞外寄生細菌に対する易感染性(肺炎・皮膚膿瘍・中耳炎・副鼻腔炎・リンパ節炎)、2)アレルギー症状(アトピー性皮膚炎・IgE高値)、3)骨・軟部組織症状(特異的顔貌・易骨折性・脊椎側弯・関節過進展・乳歯脱落遅延)の3つが中心であるが、現時点では、STAT3の突然変異がどのようにしてこれらの症状を引き起こすのかは不明である。
STAT3は30種以上のサイトカイン・増殖因子のシグナル伝達に関与し(図2)、この障害が疾患の発症に関与しているものと考えられるが、その詳細は不明である。

2)2型高IgE症候群

2型高IgE症候群においては、1型の高IgE症候群の中心症状に加えて、1)細胞内寄生細菌に対する易感染性、2)ウイルスに対する易感染性が見られる。
2型高IgE症候群のうちの、TYK2欠損症においてはIL-12と IFNαの両方のシグナル伝達障害があるため、Th1細胞の分化が障害され、IFNγの産生が低下し、そのためマクロファージが活性化できず細胞内寄生菌に対する易感染性を呈する。
また、Th1細胞の分化障害はTh2細胞の分化が過剰をもたらし、これがTYK2欠損症におけるアトピー性皮膚炎、高IgE血症の原因となっていると考えられる。
さらに、本症の患児で見られるウイルス感染、特に単純ヘルペスウイルスと伝染性軟属腫に対する易感染性はTYK2の欠損によりIFNα/βのシグナル伝達が障害されるため、IFNのウイルス複製抑制作用が発揮出来ず、これらのウイルス感染症に反復罹患・重症化するものと考えられる(図3)。

症状

1)感染症状

呼吸器と皮膚の細胞外寄生菌感染症の頻度が高く、起炎菌は黄色ブドウ球菌が多くそれ以外に連鎖球菌やインフルエンザ桿菌のこともある。
これらの肺炎が治癒した後に、肺の炎症修復機構が正常に働かず、肺嚢胞が出来ることが1型の高IgE症候群に特徴的である。
肺嚢胞に多剤耐性緑膿菌やアスペルギルスが感染し、その治療に難渋することがあり、高IgE症候群のQOLを損なう重要な因子になっている。
2型の高IgE症候群においては、肺炎の起因菌・頻度は1型と同様であるにもかかわらず、この肺嚢胞の形成は見られない。
細胞外寄生菌以外にも、真菌、抗酸菌の日和見感染症に対する易感染性も見られる。
さらに、高IgE症候群においては、炎症反応が十分に起こらないため、肺炎などの重症の感染症の罹患時に臨床的には重症感がないことが特徴的で、本症候群を診療する場合には注意を払う必要がある。
具体的には、肺炎が存在するにもかかわらず、発熱・咳嗽などの臨床症状が見られず、肺炎の存在に気づかれない症例がある注意が必要である。

2)アレルギー症状

アレルギー症状は、新生児湿疹で発症することが多い。
皮疹の性状は丘疹性膿疱性で、顔面・頭部から始まり下降性に進展する。
膿疱は抗生剤に反応せず慢性に拡大進展し湿疹性変化を呈する。
病理学的には、好酸球性膿疱性毛嚢炎で掻痒を伴い苔癬化する。
皮膚の黄色ブドウ球菌感染症などの合併により複雑に修飾されることがあるが、高IgE症候群の皮疹はアトピー性皮膚炎の皮疹と臨床的・病理組織学的に同一のものと考えられている。
約10%の症例で気管支喘息の合併も見られるが、ほぼ100%でアトピー性皮膚炎を認めるのと比較するとかなり低頻度である。
アレルギー症状は1型・2型の高IgE症候群に共通で見られる。

3)骨・軟部組織・歯牙の症状

特異的な顔貌は乳幼児期には明確でないことが多いが、15歳頃までに1型の高IgE症候群の患者のほとんどで見られるようになる。
顔の皮膚は厚く肌理が荒く、顔面の左右非対称、前額突出と眼窩陥没、幅の広い鼻梁と大きな鼻尖が特徴である。
頭蓋骨癒合も稀に見られる。
これらの異常は、顔面骨・頭蓋骨のリモデリングの異常により起こるものと考えられているが、その詳細なメカニズムは明らかにされていない。
そのほかに、脊椎の側弯、病的骨折、関節の過伸展、乳歯の脱落遅延などの骨・関節・歯牙の異常を呈し、これらは肺嚢胞とともに1型に特徴的である(表1)。

診断

高IgE症候群に特異的な臨床症状は、cold abscessと肺嚢胞で、これらは高IgE症候群の診断に非常に有用である(pathognomonic)。
NIHで作られた臨床診断スコアにより、血清IgE値や好酸球数、肺炎・皮膚膿瘍・皮膚膿瘍の罹患回数、脊椎側弯症、病的骨折、乳歯の脱落遅延、特徴的顔貌、肺の器質的病変の有無に応じて得点化し、高得点のものを臨床的に高IgE症候群と診断する。
遺伝子検査により確定診断する。
最近になって、STAT3に異常を有する高IgE症候群でサイトカイン(IL-6, IL-10, IL-23)のシグナル伝達が障害されていることが明らかとなり、今後は本症の鑑別にサイトカインシグナル伝達を用いることが可能となった。
また、肝臓におけるIL-6による急性期反応が障害されているため、感染初期における感染症の重症度を評価するマーカーとしてCRPは不適当で、IL-6などのより早期の指標を用いるべきである。

治療法

スキンケアと感染症に対する早期の抗生剤による治療が重要である。本症の患児では重症感染症に罹患していても重症感に乏しく、CRPの上昇なども軽度のため感染症の早期発見に十分な注意を払う必要がある。予防的抗生剤(ST合剤など)と抗真菌剤の投与が推奨される。肺嚢胞が存在する症例では多剤耐性緑膿菌やアスペルギルスの感染症をいったん発症すると治療に難渋することが多いので、抗生剤の予防投与が特に必要となる。 また、高IgE症候群の長期予後を改善するためには、肺の器質的変化を予防することが重要なので、高IgE症候群の早期確定診断が可能になったので、重症な乳児湿疹、黄色ブドウ球菌に対する易感染性、高IgE血症を呈する乳児期の症例において確定診断後、予防的抗生物質を早期から投与開始し、肺の器質的変化を予防し、本症候群の長期予後を改善できる可能性が出てきた。 全身性の疾患であることから、骨症状など非造血臓器の症状が合併するため、造血幹細胞移植は本症に対してあまり行われていなかったが、T細胞の機能障害が細菌感染症の発症に関与していることが明らかになってきたので、感染症のコントロールが困難な症例で今後造血幹細胞移植の実施例が増加すると予想される。

最新情報

黄色ブドウ球菌に対する免疫不全症を発症することが多い原発性免疫不全症には高IgE症候群と慢性肉芽腫症があるが、この両者の感染症の発症部位を比較してみると高IgE症候群においては、感染症が皮膚と肺に限局しているのに対して、慢性肉芽腫症においては皮膚と肺に留まらず、肝膿瘍、骨髄炎、敗血症、消化管・尿路の感染症、脳膿瘍、髄膜炎、心嚢炎など全身に黄色ブドウ球菌感染症が波及する。そこで、高IgE症候群ではなぜ皮膚と肺にのみ黄色ブドウ球菌感染症が限局するのかの検討が行われた。すると高IgE症候群においては、末梢血単核球が活性化された後でのIL-17、IL-22などのTh17サイトカインの産生が低下していることが明らかにされた。さらに活性化した末梢血単核球から産生された上清をケラチノサイトに投与すると、正常人の上清は、好中球を遊走させるサイトカインや抗菌ペプチドデフェンシンの産生を上昇させたが、高IgE症候群の患児の上清はその産生増加がほとんど見られなかった。さらに、各種のリコンビナントTh17サイトカインと古典的炎症性サイトカインをケラチノサイト、気管支上皮細胞、線維芽細胞、血管内皮細胞に投与したところ、ケラチノサイトと気管支上皮細胞においては、Th17サイトカインが好中球を遊走させるサイトカインや抗菌ペプチドの産生に重要であり、線維芽細胞と血管内皮細胞においては、Th17サイトカインが存在しなくても、好中球を遊走させるサイトカインや抗菌ペプチドの産生が十分に起こることが判明した。
このことは、Th17サイトカインに対する反応性には細胞特異性があることを示しており、またそのパターンは高IgE症候群の患児で皮膚と肺でのみ黄色ブドウ球菌感染症を起こしやすいこととよく一致していた。このため、多剤耐性黄色ブドウ球菌の感染時など抗生剤の投与のみでは、感染のコントロールができないときには、好中球を遊走させるサイトカインや抗菌ペプチドの局所投与が本症の治療に有効である可能性が示された。

参考文献

表1 高IgE症候群の分類

病型 遺伝形式 特徴的な症状 原因遺伝子
1型 散発性
稀に常染色体性優性
骨・軟部組織・歯牙の異常(特有の顔貌、脊椎の側弯、病的骨折、骨粗鬆症、関節の過伸展、乳歯の脱落遅延など)
肺嚢胞、新生児湿疹
STAT3
2型 主に常染色体性劣性 重症ウイルス感染症(単純ヘルペスウイルス、伝染性軟属腫)
中枢神経系の合併症
TYK2

図1 STAT3の構造と突然変異の位置

図1 STAT3の構造と突然変異の位置

図2 各種サイトカインの用いるレセプター・Jak・STAT

図2 各種サイトカインの用いるレセプター・Jak・STAT

図3 TYK2欠損症の発症の原理

図3 TYK2欠損症の発症の原理

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