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DiGeorge症候群

【監修】
埼玉県立小児医療センター
大石 勉先生

原理

DiGeorge症候群は副甲状腺低形成による低カルシウム血症、胸腺低形成、心流出路障害から成る。これらの症状は胎生第4週に起こる頸部神経堤細胞の第3、第4鰓弓 への遊走障害で説明される。ほとんどのDiGeorge症候群は染色体22q11.2 の欠失を呈し、ヒトの代表的な微細欠失症候群/分節性異数性症候群である。
欠失 (hemizygous deletion) は22番染色体長腕11.2 (the DiGeorge syndrome chromosome region, or DGCR) 領域の1.5-3Mbの範囲で生じ、その結果、転写因子であるTBX1TUPLE1、大動脈弓、胸腺、頭蓋顔面構造の形成に関与するCRKL、ユビキチン化蛋白の分解に関与し大動脈弓奇形との関連が示唆されるUFD1Lなど25ほどの遺伝子が失われる。
特にTBX1遺伝子のハプロ不全が身体的奇形の出現に大きな役割を演ずるとされる。

Agilent 244K アレイを使用したDiGeorge症候群におけるarray comparative genomic hybridization (aCGH) の一例。染色体 22q11.2 領域に2.54 Mbの欠失(ピンクの横棒で示した部分)を呈する。

DGCR領域には相同性の高いゲノム単位が複雑に組み合わさった低頻度反復配列 (low copy repeats, LCRs) が4か所以上存在する。このことが染色体構造の不安定性に関与し減数分裂の際にLCRs誤対合が起こり、切断点となって本疾患における欠失を引き起こすと考えられる。
一方、十分な根拠は知られていないがDiGeorge症候群の5-10%は染色体22q11.2の欠失を呈さない。母親の妊娠時における飲酒や催奇形物質であるisotretinoinへの暴露を認めることがある。光学顕微鏡で検出不可能なDGCR領域におけるより微細な欠失の存在も考慮されねばならないが、一方、染色体10p13-14、18q21.33、4q21.3-q25などの明らかな欠失が見られることもある。
発生頻度は4,000~5,000出生に1人。Down症に次いで高頻度に発生する染色体異常症である。

特徴・症状

ファロー四徴症、総動脈管遺残、大動脈弓離断、右大動脈弓、右鎖骨下動脈起始異常等の心奇形、胸腺低形成あるいは無形成によるT細胞欠損と易感染性、開放性鼻音症の原因となる口蓋裂、副甲状腺低形成による低カルシウム血症と新生児テタニー、低位耳介、小耳介、瞼裂短縮を伴う眼角隔離症 (telecanthus)、短い人中、小さな口、小顎症などの特異顔貌、精神発達遅滞、言語発達遅滞、腎尿路奇形を呈する(表)。

表 染色体22q11.2欠失症候群の臨床所見

心奇形   49-83%
  Fallot四徴症 17-22%
大動脈弓離断 14-15%
VSD 13-14%
総動脈管遺残 7-9%
低カルシウム血症 17-60%
成長ホルモン欠損症 4%
口蓋奇形   69-100%
  口蓋裂 9-11%
粘膜下口蓋裂 5-16%
鼻咽腔閉鎖機能不全症 27-32%
口蓋垂裂 5%
腎奇形   36-37%
  欠損/異型性 17%
閉鎖 10%
逆流 4%
眼科的異常   7-70%
  網膜血管蛇行 58%
後部胎生環 69%
脳奇形   8%
  大脳萎縮 1%
小脳低形成 0.4%
歯牙異常(萌出遅延、エナメル質低形成) 2.5%
骨格異常 17-19%
  椎体奇形 19%
下肢奇形 15%
言語発達遅滞 79-84%
乳児期発達遅滞 75%
小児期発達遅滞 45%
行動/精神医学的問題   9-50%
  注意欠損多動性障害 25%
統合失調症 6-30%

(Sullivan KE. DiGeorge syndrome and chromosome 22q11.2 deletion syndrome. In Immunologic disorders in infants & children. Philadelphia, 2004から引用)

多彩な表現型を有する本疾患を染色体22q11.2欠失症候群と名付けることは適切であるが、心流出路欠損症に加えて胸腺低形成によるT細胞の欠損、減少(新生児期免疫不全)と副甲状腺低形成による低カルシウム血症が強調されるものをDiGeorge症候群、口蓋裂や鼻咽腔閉鎖機能不全が顕著なものをVCFS (velocardiofacial syndromeあるいはShprintzen syndrome)、円錐動脈幹・顔貌異常を特徴とするものをTakao症候群 (conotruncal anomaly face syndrome) と呼ぶことも提唱されている。
尚、心奇形(cardiac abnormality)、 T細胞欠損 (T cell deficit)、口蓋裂 (clefting)、低カルシウム血症 (hypocalcemia) の頭字語であるCATCH phenotypeも染色体22q11.2欠失症候群の臨床症状を総合的に表現する術語として使われる。しかしchromosome 22q11.2領域に欠失が存在するものの典型的なDiGeorge症候群の表現型を呈さない患者も少なくない。
免疫能の程度も多彩で、重症複合免疫不全症(SCID)から正常までと広範なスペクトルを呈する。しかし乳児期においても完全なT細胞欠損を呈する重症免疫不全症(完全型DiGeorge症候群)は<1%と稀で、ほとんどは軽度から中等度のT細胞欠損症である。重症でなければ通常免疫能は回復する。NK細胞の減少や機能異常はない。
B細胞数は正常か増加を示し、血清免疫グロブリン濃度は通常は正常である。大多数のDiGeorge症候群では正常な抗体機能と抗原結合力(avidity)を認めるが、肺炎球菌多糖体に対する抗体反応の欠損や減弱等の抗体産生不全を呈することもある。
また原発性免疫不全症に共通していることであるが、自己免疫疾患や悪性疾患を発症しやすい。
自己免疫疾患はT細胞機能不全の重症度とは無関係に高頻度に出現し、若年性特発性関節炎(JIA)や自己免疫性血球減少症、自己免疫性甲状腺疾患が多い。JIAは2%、特発性血小板減少症(ITP)は4%に見られる。また、抗核抗体、抗赤血球抗体、抗甲状腺抗体は稀ならず出現する。
これらの自己抗体や自己免疫現象の高頻度の出現は、胸腺内で自己反応性T細胞がアポトーシスを起こして除去される正常な分化過程が障害されることが原因と考えられる。しかし反復する感染が自己免疫現象の誘因となる可能性も残っている。
悪性腫瘍合併率も高く、著明なT細胞欠損ではB細胞性リンパ腫を発生しやすい。

診断

一般的には円錐動脈管心奇形、胸腺低形成、特異な顔貌、低カルシウム血症、口蓋裂を特徴とする臨床症状の組み合わせが診断基準として使用される。
fluorescence in situ hybridization (FISH) やarray comparative genomic hybridization (aCGH) をおこない22q11.2欠失を検索する。
22q11.2欠失を認めない症例ではアルコール等胎児毒素への暴露の有無を探求すると共に、染色体10p13-14等その他の染色体欠失を検索する。

治療法

免疫学的な事柄についてのみ記載する。免疫不全症を呈すると思われるDiGeorge症候群患者は隔離し、放射線未照射血あるいはCMV陽性血液製剤の使用は避ける。ガンマグロブリン静注やPneumocystis jirovecii肺炎に対する予防薬投与は必要である。T細胞機能障害がある場合、機能性抗体の産生がない場合、著明な末梢血T細胞減少が明らかな場合は生ウイルスワクチン接種は控える。
重症例では骨髄移植(BMT)も考慮される。DiGeorge症候群におけるBMTや末梢血リンパ球移植の理論的根拠は造血幹細胞というよりむしろ成熟T細胞を供給することにある。胸腺組織がない状態では造血幹細胞は適切に成熟できないと考えるからである。この背景においては同胞適合移植片(sibling-matched transplant)のみが適応となる。
胎児胸腺埋め込み術は免疫再建法の開発初期におこなわれたが胎児胸腺確保が困難なためその適用は限られた。
近年、心臓手術の際に得られた、必ずしもHLA適合を必要としない乳児の胸腺組織を培養し、培養胸腺組織を完全型DiGeorge症候群患児の大腿四頭筋に移植してT細胞機能を構築する方法がおこなわれ、一定の成果が報告されている。

予後

最近の研究では死亡率は5-8%。死亡の大多数は生後6か月以内に起こり心臓疾患に起因する。長期的予後に関しては免疫異常は滅多に致死的ではないので、心疾患、副甲状腺機能低下症、情緒障害や知的障害などが主要な問題となる。しかしながら情緒障害や知的障害のために就学就業困難なものは少ない。

今後の動向

Tbx1は転写因子をコードする。Tbx1は咽頭嚢内胚葉上皮や咽頭弓中胚葉組織に発現する。Tbx1ノックアウトマウスでTbx1のハプロ不全を示すことが知られているが、ヒト染色体22q11.2欠失症候群でもTbx1は主要責任遺伝子と考えられる。Tbx1は環境的因子や22q11.2領域内外の遺伝的因子(modifier genes)により発現量が影響を受け、臨床表現型が決定されると推測されている。これらの因子に加えてエピジェネティク因子の関与も考えられ、その解明が必要である。
aCGHを使用することにより染色体22q11.2欠失症候群の欠失領域の両端の切断点の詳細が明らかになってきた。近位および遠位の切断点であるLCR内に存在する様々な遺伝子の残存あるいは欠失が表現型の発現と関連する可能性があり、今後の解明が待たれる。

参考文献

1. Bittel DC, Yu S, Newkirk H, Kibiryeva N, Holt III A, Butler MG. Refining the 22q11.2 deletion breakpoints in DiGeorge syndrome by aCGH. Cytogenet Genome Res 2009;124:113-120
2. 山岸敬幸、山岸千尋.染色体22q11.2欠失症候群.循環器科 2006;60:409-417.

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