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Wiskott-Aldrich症候群

【監修】
東北大学
笹原 洋二先生

はじめに

Wiskott-Aldrich症候群(以下WASと略)は、サイズの減少を伴う血小板減少、湿疹、易感染性を3主徴とし、通常男児に発症するX染色体連鎖性劣性原発性免疫不全症である。
その原因遺伝子はWASPである1) 2)
ここでは診断と病態、治療法、最新情報に関する最近の知見につきまとめる。

WASの特徴と臨床症状

1. WASの特徴―その病因と重症度分類

X染色体上(Xp11.22)に存在するWASP遺伝子変異がWASの病因である。
WASP遺伝子は12エクソンよりなり、501個のアミノ酸をコードしている。
以下にその1次構造と結合蛋白質群を示す。
現在まで多くの遺伝子異常が報告されており、変異はWASPのどこにも生じ得るが、N末端の1-4エクソンに集中している点が特徴であり、その多くがミスセンス変異である。

WASの特徴―その病因と重症度分類

同様の遺伝形式で免疫不全を伴わず血小板減少のみを呈するX連鎖性血小板減少症(X-linked thrombocytopenia、以下XLTと略)があり、治療抵抗性ITPや他の血小板減少を伴う疾患群との鑑別が重要となる。
またWASPの恒常的活性化変異によるX連鎖性好中球減少症(X-linked neutropenia、以下XLNと略)もWASP異常症であることが報告されている。
ごく稀に、WASは女児にも発症したとの報告がある3)

遺伝子型/表現型(重症度)の関連性として、リンパ球におけるWASP蛋白質の発現の有無が相関し4)、重症例はWASP蛋白が発現しておらず、nonsense変異,frameshiftを伴う挿入、欠失、large deletionが多い。
XLTを含む軽症例はWASP蛋白が発現している例が多く、missennse変異例が多い。
血小板でのWASP蛋白の発現は全例検出感度以下であり、WASP異常症のほぼ全例が血小板減少を伴うことと相関する。
免疫不全の程度は多様であり、表1Aのようなクラス(重症度)分類が提唱されている。
また、WASP発現パターンからのグループ化の報告があり、これもリンパ球におけるWASP蛋白質の発現パターンが基礎になっている5)(表1B)。

表1 (A)Wiskott-Aldrich症候群の重症度分類(Shcherbinaら5) 1999より引用一部改変)

クラス1(XLT) 血小板減少のみ
クラス2(XLT) 血小板減少+軽症一過性の湿疹±軽症感染症
クラス3(WAS) 血小板減少+持続性の湿疹and/or反復性感染症
クラス4(WAS) 血小板減少+持続性難治性湿疹+反復性重症感染症
クラス5(WAS) 血小板減少+湿疹and/or反復性感染症+自己免疫疾患あるいは悪性腫瘍の合併

表1 (B)WASP発現レベルからのグループ化(Shcherbinaら5) 1999より引用一部改変)

Group A WASP蛋白発現は末梢血単核球で低発現、EBV-LCLsで高発現。
WASPmRNA発現はほぼ正常。
WASPはより蛋白分解を受けやすい。WIP結合領域のミスセンス変異が多い。XLTを含む軽症例が多い。
Group B WASP蛋白発現は末梢血単核球、EBV-LCLs共に低発現。
WASPmRNAも蛋白と同程度に低発現。
中等症が多い。
Group C WASP蛋白発現はT細胞で陽性、B細胞やEBV-LCLsでは陰性。
重症度は多様。B細胞性リンパ腫の合併が多い。
Group D WASP蛋白発現は末梢血単核球、EBV-LCLs共に陰性。
重症例が多い。

2.臨床症状

1)血小板減少

ほぼ全例で見られ、出生直後から見られることが多く、初発症状の約8割を占める。
血便、皮下出血が多いが、頭蓋内出血はITPより明らかに高頻度である。
サイズの減少を伴い、平均血小板容積は3.8-5.0fl(正常7.1-10.5fl)と報告されている。

2)易感染性と免疫不全

上記理由から易感染性の程度は症例により異なるのが特徴である。
XLTを除き、古典的WASは乳幼児期から中耳炎、肺炎、副鼻腔炎、皮膚感染症、髄膜炎などを反復する。
起炎菌としては肺炎球菌やブドウ球菌が多く、真菌感染ではカンジダ、アスペルギルスが、原虫ではカリニ肺炎が少数で見られる。
ウイルス感染では、ヘルペス属ウイルス感染症(HSV、VZV、CMV、EBV)が多いのが特徴である。
T細胞の反応性は低下例が26%で、正常例は46%である。
最近WASPの異常によりTh1細胞への分化を司る転写因子の発現が低下することが示された。
NK活性は半数で正常だが、低下例が多いとの報告もある6)
B細胞では免疫グロブリンは従来から、IgG正常、IgM低下、IgA上昇、IgE上昇とされるが、症例や年齢、感染の合併により異なる。
抗多糖類抗体、同種血球凝集素価などの特異抗体産生は低下する。
補体価は正常とされるが、好中球および単球の遊走能は低下する例が多い。

3)湿疹

湿疹はアトピー性湿疹様で、難治である。
湿疹の原因についてはまだ推測の域を出ないが、皮膚の常在菌に反応するT細胞からのサイトカイン分泌異常が示唆される。

4)自己免疫疾患

古典的WASの約40%に見られ、自己免疫性溶血性貧血、血管炎、腎炎(IgA腎症など)、関節炎、炎症性腸疾患の合併が報告されている。

5)悪性腫瘍

ほとんどが悪性リンパ腫である。稀に脳腫瘍の報告もある。EBV関連を含むB細胞性腫瘍が多いのが特徴的である。クラス3以上の古典的WASでの合併率は13%とされる。

確定診断とその方法

1. WASP遺伝子異常の同定

臨床症状の多様性から、確定診断にはWASP遺伝子異常を同定することが必須である。
現在、フローサイトメトリーによる細胞内WASP蛋白検出が、末梢血単核球(リンパ球、単球、NK細胞)にて行う方法が確立しており、もっとも迅速であり、スクリーニングとして有用である。
当研究室で確立したモノクローナル抗体と方法で7)、三菱化学への委託検査が可能である(図2)。

図2 WASP蛋白質発現のフローサイトメトリー法による迅速診断

WASP蛋白質発現のフローサイトメトリー法による迅速診断

この方法により、各血球画分でのWASP発現が確認でき、また経過中のWASP蛋白発現の推移やreversionの症例の検索にも有用である。
Western blot法によるWASP蛋白発現の検討も有用である。
WASP蛋白発現がないか減少している例に対して末梢血を用いてWASP遺伝子の変異解析を行う。
国内ではPIDJにて解析可能である。また保因者診断も技術的にほぼ可能である。
男児で乳児期からの血小板減少症がある場合、特発性血小板減少性紫斑病(ITP)や他の先天性血小板減少症との鑑別が必要になるが、難治例あるいは家族歴がある場合は、血小板サイズ、WASPの異常をスクリーニングする必要がある。
逆に治療抵抗性ITP症例のなかにWASP異常症としてのXLTが存在する可能性もある。

治療法と長期予後

1.根治療法および支持療法

根治的治療としては造血幹細胞移植が行われる。
WASP異常症の重症度は様々であるため、どの症例でいつ、どの造血幹細胞で行うかという点が問題になる。
WASP蛋白発現を認めず、感染を繰り返す症例では早期に移植を考慮すべきである。
血小板減少が主体のXLT症例でも、重篤な出血、自己免疫疾患、悪性腫瘍、腎炎を合併することがあり、今後の症例蓄積が治療方針決定に重要である。
5歳以下の症例は約80%の移植後長期生存率であるが、5歳以上では様々な合併症により成功率が低くなる点に留意すべきである8)
最近は臍帯血移植や骨髄非破壊的前処置法による移植の成功例も報告されている。
血小板減少に対する摘脾については、多くの症例で血小板増加が得られるが、経過とともに減少することもある。
また、感染症のリスクが増加することから適応は慎重に考慮する必要があり、推奨はされていない。
γグロブリン大量療法やステロイド剤は通常効果に乏しい4)
血小板輸血は、重大出血、手術時はやむを得ないが、血小板不応性に至る例もある。
重大出血の頻度はITPと比較し有意に高いと考えられる。
湿疹は治療に難渋するが、一般的なアトピー性皮膚炎治療に準じた治療を行い、食物アレルギーが明らかであれば除去食を考慮する。
筆者らはFK506軟膏が対症的に有効であった症例も経験している。
感染対策としては前述の如く化膿菌、ヘルペス属ウイルス群、真菌が多いため、臨床経過に応じて、ST合剤、抗真菌剤、抗ウイルス剤投与を考慮する。
γグロブリンの定期的補充は、IgG<500mg/dlの症例や重症感染時には考慮する。
ヘルペス属ウイルス感染症のリスクが高いため、EBVとCMVのモニタリングも重要である。

2.長期予後

本邦における免疫不全合併例の平均長期生存年齢は11歳とされる。
感染症、出血、悪性腫瘍が主な死因であり、10歳までの死因のほとんどは感染症と出血である。
易感染性を伴わないXLTでの予後は古典的WASよりも良好であるが、経過とともに出血、IgA腎症からの腎不全、自己免疫疾患や悪性腫瘍の合併率が増加し、予後予測には更なる症例蓄積が必要である4)

3.遺伝子治療の最近の基礎的知見

近年、WASPノックアウトマウスを用いた遺伝子治療の基礎研究、患者末梢血T細胞へのWASP遺伝子導入などが報告されている。
WASPノックアウトマウス造血幹細胞にレトロウイルスベクターにて正常WASPを導入し、マウス表現形の改善を得た報告がある9)
また、患者末梢血T 細胞にレトロウイルスベクターにて、また最近ではレンチウイルスベクターを用いてWASP遺伝子を導入し、T細胞機能の改善を得たとの報告が出ている10)
最近WAS症例に対する造血幹細胞にレトロウイルスベクターを用いた遺伝子治療の報告がなされた。11)
T細胞性白血病発症のリスクが今後の重要な課題であるが、将来的に遺伝子治療が治療法の選択肢になりうることを期待する。

分子病態に関する最近の知見―新しいWAS病型

現在までWASPの機能や結合蛋白質に関して数多くの報告がなされており2)、その中のWIP (WASP-interacting protein) は我々の共同研究者によりクローニングされたWASP結合蛋白質である12)

図3 活性化シグナル下でのWASPの3次構造の変化と結合蛋白質との相互作用

活性化シグナル下でのWASPの3次構造の変化と結合蛋白質との相互作用

図3にWASP活性化後のWASP-WIP複合体の3次構造の変化と結合分子群との関係について図示した。
WAS症例のT細胞では、活性化後のアクチン重合化とIL-2産生は有意に低下しており、WASP-WIP 複合体は細胞骨格系、T細胞活性化を司る重要な分子である。
筆者らはWIPノックアウトマウスの解析から、WIPがWASP蛋白質の安定性に不可欠な分子であり、WIPはWASP活性化後の蛋白質分解のメカニズムからWASPを保護する分子シャペロンとして機能することが示された13)
WAS患者におけるWASP変異をまとめると、WIP結合領域であるN末のエクソン1-4に集中している点が特徴であり、その多くがミスセンス変異である。
ミスセンス変異による恒常的なWASP-WIP結合の解離により、WIPノックアウトマウスと同様に、WASPはWIPによる蛋白分解からの保護が受けられず、WASP蛋白質発現量が低下することが発症の原因となると考えられた。
実際、臨床的にこれらの症例は軽症例や免疫不全を伴わないXLTの場合が多く、T細胞などの免疫担当細胞にごく僅かに残存するWASPが臨床的には宿主の免疫能として十分なのかもしれない。
但し、全例で血小板減少を伴うのは、全ての症例で血小板でのWASPの発現量は感度以下であることと相関する。
現在筆者らは、これまでの研究成果を基盤として、表2に示した根拠から、WIP欠損症のスクリーニングを継続している。
WIPがWASP蛋白質の安定性に重要な役割を果たしている点13)、WIPノックアウトマウスとWASPノックアウトマウスとの表現型が類似し14、WIP遺伝子はヒトでは常染色体にコードされている点を根拠として、性別を問わずWAS様の臨床経過が認められるにもかかわらず、WASP蛋白質発現が低下していながら、WASP遺伝子異常が同定されない症例を対象に行っている。
常染色体性WASとしての新しい疾患概念を確立し、WASの診断と治療法の進展に寄与できれば幸いである。

表2 WIP欠損症のスクリーニング

  1. 1. WIP蛋白質は,WASP蛋白質の安定に重要である。
  2. 2. WASP とWIP ノックアウトマウスの表現形が類似している。
  3. 3. WIP 遺伝子はヒトでは常染色体上にコードされる。

対象症例として

  • 性別を問わず
  • WAS様の臨床経過 があり
  • WASP 蛋白質発現レベルが減少している
  • WASP 遺伝子異常が同定できない

常染色体性- または Type 2- WAS

おわりに

WASP遺伝子の発見1)以来17年の間に多くの知見が集積されてきており、この稿で全てを網羅できないが、WASの診断と治療法には多くの進歩がみられた。
WASP異常の迅速診断系、遺伝子診断系は確立し、迅速で確実な診断が可能になった。
また、新しい病型として常染色体性WASとしてのWIP欠損症の診断法も今後確立するであろう。
根治療法である造血幹細胞移植技術の進歩により予後は改善しつつある。
今後は遺伝子治療も選択肢に入るかもしれないが、長期的予後や白血病発症のリスクが今後の重要課題である。

文献

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