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単純ヘルペス脳炎(HSE)

【監修】
九州大学
原 寿郎先生  石崎 義人先生

はじめに

単純ヘルペスウイルス(herpes simplex virus: HSV)はヒトヘルペスウイルス亜科に属する2本鎖DNAウイルスである。
HSVは1型2型のサブタイプに分類される。
感染の多くは不顕性であり、症状を起こすものでは、局所に限局した再発(口唇ヘルペス、歯肉口内炎など)から致死性のものまで様々である。
小児期から成人で単純ヘルペス脳炎(Herpes simplex virus type 1 encephalitis: HSE)の原因となるのは1型が大半であるが、新生児期には2型によるものもみられる。
HSEの発症年齢には2つのピークがあり、6ヶ月から3歳までは初感染が関与し、50-60代では再活性化が関与するとされている。
初感染時のウイルスは嗅球または三叉神経を介して中枢神経系に侵入すると考えられている。
症状は発熱、けいれん、意識障害など非特異的な症状であり、診断には病初期の髄液中のHSV-DNAの検出が現時点では最も確実な検査法である。
アシクロビルが治療に使用されるようになってから致命率は10%程度に低下したものの、いまだ3分の1の症例においては重度の後遺症を残す。
中枢神経系に親和性の高い特別な株は存在しないとされ、季節性の流行もみられない。
単純ヘルペス脳炎に罹患した児は、他の病原体への易感染性を示さず、いわゆる原発性免疫不全症の児でHSEを起こしたという報告は、IFN産生の低下を認めるSTAT1(signal transducer and transcription activator-1)遺伝子異常とNEMO(nuclear factor kappa B (NF-κB) essential modulator)遺伝子異常の2例のみで、抗酸菌感染を合併していた。
フランスの85例の小児HSE症例の検討では、1歳から3歳で罹患した症例が大部分(62%)で、近親婚や早期発症の単純ヘルペス性角膜炎などの家族性因子が20%でみられた
小児期に見られるHSEにおいて、自然免疫経路の単一遺伝子異常が発症に関与することが報告された。

自然免疫系について

免疫系は、病原体(細菌やウィルスなど)の侵入を察知し排除する生体防御システムで、ヒトでは基本的に生物が持つ異物や病原体に対する防御システムである非特異的な「自然免疫系」と後天的に外界との関係で獲得していく特異的、多様的な「獲得免疫系」から成り立っている。
Tリンパ球が主役を務める獲得免疫系が抗原を自己ではないものとして認識する機構は、詳細に解析されてきた。
自然免疫は細菌、ウイルス、寄生虫といった感染病原体の初期認識ならびにその後の炎症反応の惹起や獲得免疫の誘導に重要な役割を果たしている生体防御メカニズムである。
自然免疫を司る細胞であるマクロファージや樹状細胞は病原体固有に存在する構造(Pathogen-associated molecular patterns: PAMPs)を認識するパターン認識受容体(Pattern-recognition receptors: PRRs)を発現しており、このPRRsを介して活性化シグナルが伝達される。
PRRsの中でもToll様受容体(Toll-like receptors: TLRs)は、ハエにおける真菌防御因子として発見されたTollのヒトホモログとして同定された膜型受容体ファミリーで、ヒトではTLR1-10が知られている(表1)

TLRsは細胞外領域に存在するLRR(Leucine-rich repeat)で対応する様々なPAMPsを認識後、細胞内領域のTIR(Toll and interleukin-1 receptor)ドメインが、アダプター分子であるMyD88やTRIF(TIR domain-containing adaptor-introducing IFN-β)などと結合し、NF-κBやIRF3という転写因子を活性化し、炎症性サイトカイン(IL-6、TNF-α、IFN-βなど)産生を誘導する(図1)。

図1. TLRsのシグナル伝達経路

IKKε: IκB kinase ε, IRAK: interleukin-1 receptor-associated kinase, TIR: Toll-IL-1 receptor, TRAF: TNF receptor-associated factor, TRIF: TIR domain-containing adaptor-inducing IFN-β,

ウイルス感染とTLRs

ウイルス感染では多くの場合、核酸かウイルス蛋白がPAMPsとして作用する。
核酸認識に関わるTLRsとしては、RNAと検知するTLR3, TLR7/8とDNAを検知するTLR9がある。
TLR3はエンドゾーム内で二本鎖RNAのセンサーとして機能し、A型TLR7/8はエンドゾーム内で一本鎖RNAを認識する。TLR9はエンドゾーム内で、微生物由来のゲノムDNAに特徴的に認められる非メチル化CpGモチーフを認識する。
ウイルス感染のコントロールに重要であるIFN-α/βとIFN-λの産生に関わっている。

HSE感受性と自然免疫経路遺伝子異常

Casanovaらのグループがフランスで疫学調査を行い、52家系86症例のHSE患者を集積し、その後の解析でHSE感受性に関わる単一遺伝子異常を明らかにし報告している。

1.UNC93B1遺伝子

HSEを起こしうる免疫不全(STAT1異常とNEMO異常)でIFN産生が低下することから、HSE患者末梢血単核球をHSV-1で刺激しIFN産生を確認したところ、2例で低下していた。
2例はそれぞれ近親婚のある別家系の症例で、UNC93B1遺伝子にホモ接合体変異(1034del4、781G>A)が確認された)
核酸認識に関わるTLRs(TLR3、TLR7、TLR9)は、細胞表面上ではなく細胞内に存在する。
そして、病原体またはその成分がエンドサイトーシスされると、核酸認識TLRsはエンドソームにて病原体由来の核酸成分を認識する。
TLR7とTLR9は細胞内の小胞体で合成され、小胞体内にて UNC93B1と呼ばれる小胞体蛋白質と結合して局在している。
そして、刺激が入るとTLR7とTLR9はUNC93B1とともにエンドソームに移動して、病原体成分を認識して活性化している。
UNC93B1の機能欠損変異体マウス(3Dマウス)は、病原体の核酸成分に反応できないことが知られている。

2.TLR3遺伝子

UNC93B1異常の患者でTLR3刺激に対するIFN応答が低下していること、HSV-1は二本鎖DNAウイルスであるが、複製の途中で二本鎖RNAの形態を取ること、また中枢神経系のmicrogliaでTLR3の発現がみられることからTLR3を候補遺伝子として確認したところ、2例の患者でTLR3遺伝子のヘテロ変異(P554S)が確認された)
同じ変異をもちHSEを発症していないHSV-1抗体価陽性の同胞が確認され、不完全な浸透率と考えられた。
UNC93B1異常の患者と異なり、TLR3ヘテロ変異の患者では末梢血単核球のHSV-1に対するIFN産生は正常範囲であるが、線維芽細胞でのIFN産生は低下していた。

3.TRAF3遺伝子

TLR3-IFN経路の8遺伝子を候補遺伝子としてシークエンスをしたところ、1例でTRAF3(TNF receptor-associated factor 3)遺伝子のエクソン3にヘテロ変異(R118W)が確認された)
線維芽細胞を用いた刺激実験から、この変異は1型インターフェロン産生にdominant-negativeな効果を示すことが確認された。

HSE合併の報告のある原発性免疫不全症であるSTAT1異常症では、TLR3依存性の1型インターフェロン産生が障害される。
一方、自然免疫に関わるIRAK4欠損症やMyD88欠損症ではTLR3のシグナルは保たれるので、重症の細菌感染症は発症するが、HSEは合併しないとされている

おわりに

一般的に原発性免疫不全は反復性もしくは難治性の重症感染を臨床的特徴としてきた。
障害を受けた系によって臨床像は異なることが知られており、今回紹介した遺伝子異常(UNC93B1, TLR3, TRAF3)ではHSVという特定の病原体に対して易感染性を示し、これまでの免疫不全症の概念とは異なる。
TLR3異常症では線維芽細胞ではTLR3刺激に対するIFN応答の低下を示すが、末梢血単核球では正常である。
自然免疫はほぼ全ての細胞が備える免疫機構であり、細胞特異的な自然免疫応答の低下が、UNC93B1, TLR3, TRAF3異常症でHSEが起こる原因である可能性があり、実際患者由来の多能性幹細胞を使用して分化させた神経細胞などの中枢神経細胞においてTLR3刺激による応答の低下が報告された

ヒトTLRsと対応するPAMPs

TLRs PAMPs
TLR1 トリアシルポリペプチド
TLR2 ペプチドグリカン等リポペプチド
TLR3 二本鎖RNA(ウイルス)、poly(I:C)
TLR4 LPS
TLR5 フラジェリン
TLR6 ジアシルポリペプチド
TLR7/8 一本鎖RNA(ウイルス)、イミダゾキノリン誘導体
TLR9 CpG DNA (ウイルス、細菌)
TLR10 不明

TLRs: Toll-like receptors, RAMPs:pathogn-associated molecular pattern

参考文献

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