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APECED(APS-1)(カンジダ感染と外胚葉形成異常を伴う自己免疫性多腺性内分泌不全症)・IPEX(多腺性内分泌不全症、腸疾患を伴う伴性劣性免疫調節異常

【監修】
北海道大学
小林 一郎先生

免疫反応は生体に有害な病原体を除去することで生体を守っている。
例えば白血球の一種である好中球は、進入してきた細菌の種類によらずこれを食べて(貪食)殺す(殺菌)役割を持っている。
一方はしか(麻疹)に感染したり麻疹ワクチンを接種すると以後は麻疹には罹らないが、他のウイルスには感染する。これは感染や予防接種により麻疹固有の成分=抗原に対する反応性をもつリンパ球(TおよびB細胞)が増殖し生き残るためであり、再度麻疹ウイルスが侵入した時には直ちに麻疹(抗原)特異的なB細胞やT細胞が動員され、また既に(B細胞から分化した)形質細胞によって産生された抗体がウイルスを中和する。これを抗原特異的反応と呼ぶ。こうした抗原特異性はB細胞やT細胞の表面に存在するB細胞受容体ないしT細胞受容体によって決定される。
B細胞受容体やB細胞が形質細胞に分化して産生する抗体は抗原分子とそのまま結合することができる。
一方T細胞受容体は、抗原提示細胞(マクロファージ、樹状細胞、B細胞など)で消化・断片化された抗原が自己の組織適合性抗原(MHC、ヒトではHLA)に挟み込まれた状態で細胞表面に提示された場合にこれを認識する。
これらの受容体はBないしT細胞の分化の過程で遺伝子再構成というメカニズムによって多様な抗原に対応できるようになる(図1:このB細胞受容体の多様性のメカニズムを解明した業績で利根川進博士がノーベル医学生理学賞を受賞している)。

図1:免疫グロブリン(B細胞受容体)の多様性

図1:免疫グロブリン(B細胞受容体)の多様性

約65通りのV領域、27通りのD領域、6通りのJ領域の組み合わせで抗原認識のアミノ酸配列が決定される:65x27x6= 10,530通り
さらに軽鎖は320通り
λ鎖V領域(30)x J領域 (4)= 120
κ鎖V領域(40)x J領域 (5)= 200
重鎖と軽鎖の複合体は理論的には3,369,600通りの組み合わせとなる
さらに塩基欠失や追加により多様性はさらに増す

しかし、この遺伝子再構成はアトランダムに起こることから、一定の確率で生体自身の成分(自己抗原)に対して反応する受容体を持つ細胞が生じてくる。
こうした自己反応性BないしT細胞の存在は自分の免疫細胞や抗体が自分の体の成分を攻撃する自己免疫反応を来すことから生体にとっては不都合である。
T細胞は骨髄などの造血器官でその前駆細胞として発生し、胸腺という臓器で分化・成熟した後に末梢に出てくる。
胸腺においては適度な強さで自己のMHCと反応するT細胞のみが生存・増殖する(ポジティブセレクション)。
一方、自己抗原と強く反応する細胞(自己反応性T細胞)の大部分は胸腺における分化の過程で死滅する(ネガティブセレクション)。
胸腺におけるネガティブセレクションを免れた自己反応性T細胞の多くもまた不活性化する(アネルギー)。
さらに、生体に不都合な過剰な免疫反応を抑制する制御性T細胞(regulatory T cell; Treg)が存在し、これが自己反応性T細胞を抑制している。
このように、正常な状態では免疫系の暴走をいくつかの方法で抑制することにより自己免疫疾患の発症が抑えられているといえる(図2)。

図2:免疫寛容の機序

図2:免疫寛容の機序

逆に自己免疫抑制(免疫寛容)機序の破綻は多彩な自己免疫疾患を来すことになる。

ここでは、胸腺におけるネガティブセレクションに重要な働きをするautoimmue regulator (AIRE)の変異で生じる自己免疫性多内分泌腺症-カンジダ症-外胚葉ジストロフィー(autoimmune polyendocrinpathy-candidiasis-ectodermal dystrophy; APECED)あるいは自己免疫性多内分泌腺症1型(autoimmune polyendocrinopathy type 1: APS type 1)と呼ばれる疾患、およびTreg細胞の分化に必要な転写因子forkhead box P3 (FOXP3)の変異によって生じるImmunedysregulation, polyendocrinopathy, enteropathy, X-linked syndrome (IPEX)を取り上げる。

APECED (autoimmune polyendocrinopathy, candidiasis, ectodermal dystrophy)

1. 原理

主として胸腺髄質上皮細胞に発現するAIREをコードする遺伝子の変異で生じる。
この遺伝子は21番染色体(21q22.3)に存在し、APECEDは常染色体劣性遺伝形式をとる。
ネガティブセレクションが起こるためには、他の特定の臓器にしか出ないはずの抗原が胸腺において発現する必要がある。
AIREはこうした自己抗原を胸腺髄質細胞に発現させる転写因子として働いていると考えられている。
したがってAIREの変異により自己抗原が胸腺で発現しないと適切なネガティブセレクションが起こらなくなる。
その結果自己抗原に強く反応するT細胞が成熟して末梢に流出し、多彩な自己免疫疾患を呈すると考えられている。
本疾患ではさらに慢性皮膚粘膜カンジダ症を呈するが、近年これが真菌感染防御に必要なサイトカインに対する自己抗体産生が原因と報告されている。

2. 特徴・症状

1)内分泌症状

多彩な内分泌腺疾患のうち、副甲状腺機能低下症および副腎皮質機能低下症(アジソン病)は70%以上の頻度で認められる。
副甲状腺はCa代謝に重要な副甲状腺ホルモンを産生する臓器であり、副甲状腺機能低下症の発症はAPECEDにおいては通常は5-10歳で、20歳までに多くが発症する。
低Ca血症をきたし、臨床的にはテタニー・けいれんなどを生じる。
通常、副腎皮質機能低下は副甲状腺機能低下症に比べ発症が遅い傾向がある。
副腎皮質はコルチゾールに代表される糖質コルチコイド、アルドステロンに代表される鉱質コルチコイドに加え、テストステロンなどの副腎性アンドロゲン(男性ホルモン)を産生する。
副腎皮質機能低下症においてはこれらのホルモンの欠落に伴う症状を呈する。
糖質コルチコイドは糖代謝やストレスに対する反応に重要な役割を持ち、その欠乏は体重減少・食欲低下・倦怠感・脱力・精神症状・頭痛・低血糖・悪心・嘔吐など多彩な症状を呈しうる。
鉱質コルチコイドは水・電解質バランスのコントロールに重要で、その欠乏は低ナトリウム血症・高カリウム血症代謝性アシドーシス・低血圧・頻脈・塩分を欲しがるなどの症状を呈する。
副腎性アンドロゲンの欠乏は女子において皮膚萎縮・腋毛恥毛減少・筋力低下・貧血などを呈する。
糖質コルチコイドは脳下垂体より分泌されるACTHによってコントロールされており、糖質コルチコイド欠乏は慢性的なACTH分泌促進を来す。その結果色素沈着が目立つようになってくる。
性腺機能低下症は思春期以降の女性の60%程度に見られ、しばしば副腎皮質機能低下症を合併する。
その他、膵ランゲルハンス島の障害によってインスリン産生低下(1型糖尿病)、まれに甲状腺機能低下症を起こす。

2)粘膜皮膚カンジダ症

口腔内カンジダ症は通常の鵞口瘡に比較して重症である。
食道カンジダ症も多く見られ、胸痛・胸焼け・嚥下痛・嚥下困難などの原因となる。
消化管カンジダ症は腹痛・下痢の原因となり、肛門周囲にも病変を作る。
手・爪・顔面の皮膚や肺にも病変を作ることがあるが全身に及ぶことはまれである。

3)外胚葉異形成

永久歯のエナメル質低形成、爪形成不全、禿瘡・脱毛、皮膚白斑(色素脱失)などを認める。

4)その他の症状

消化器疾患を来すことがある。
自己免疫性胃炎は抗内因子抗体や抗壁細胞抗体によって生じ、ビタミンB12欠乏の結果巨赤芽球性貧血をきたす(悪性貧血)。
周期性ないし慢性の下痢はしばしば交代性に便秘を伴う。
副甲状腺機能低下症による低カルシウム血症のために十二指腸からのコレシストキニン分泌が抑制され、胆嚢収縮や膵外分泌(消化酵素)が低下するために脂肪性の下痢を呈する。また十二指腸のクロム親和細胞に対する自己抗体の関与も考えられている。
自己免疫性肝炎も10%程度に見られ、時に劇症化することがある。
角結膜炎は35%にみられ、シェーグレン症候群の診断基準を満たすこともある。
無脾症を合併することがあるが原因は不明である。

3. 診断

30歳以下で発症する副甲状腺機能低下症、副腎皮質機能低下症、1型糖尿病などの典型的な症状の組み合わせと皮膚粘膜カンジダ症、外胚葉異形成などから疑う。各症状と自己抗体の対応を表に示す。
最終診断はAIRE遺伝子の変異によって確定する。

APECEDの合併症と対応する自己抗原
(Primary Immunodeficiency Diseases第2版 Oxfordより改変)

疾患 自己抗原
Addison病 ステロイド合成酵素(P450c21, P450c17, P450scc)
性腺機能不全 P450scc
副甲状腺機能低下症 カルシウム感受性受容体
甲状腺機能低下症 甲状腺ペルオキシダーゼ、サイログロブリン
1型糖尿病 GAD65/67, IA-2, ICA
禿瘡 チロシン水酸化酵素
自己免疫性肝炎 P4501A2, P4502A6, AADC
自己免疫性胃炎 H+K+-ATPase, 内因子
消化管吸収障害 トリプトファン水酸化酵素
白斑 転写因子(SOX9, SOX10)
皮膚粘膜カンジダ症 IL-17A, IL-17F, IL-22, IFN-α, ω

略語:GAD, glutamic acid decarboxylase; IA-2, tyrosine phosphatase; ICA, islet cell antigen; AADC, aromatic L-amino acid decarboxylase; IL, インターロイキン; IFN, インターフェロン.

4. 治療法

合併症に応じたホルモンやカルシウムの補充療法や真菌感染症に対する抗真菌剤の投与を行う。
自己免疫性肝炎に対してはステロイド剤やアザチオプリンなどの免疫抑制剤投与を行うが反応の悪い例がある。
下痢のうち自己免疫が関与する症例では免疫抑制剤が投与される。
生ワクチンは禁忌である。
無脾症合併例では肺炎球菌ワクチンやインフルエンザ桿菌ワクチンを打っておく必要がある。
副腎皮質機能低下症の急性発症や感染・手術などのストレスによる急性副腎不全は生命に関わる合併症であり、突然死の可能性もある。
低カルシウム血症、1型糖尿病も急性増悪に注意が必要である。

5. 今後の動向

新しい抗真菌剤や各種ホルモン補充療法の進歩はカンジダ感染症や内分泌疾患の管理を改善してきた。
一方、APECEDの根治療法に関しては大きな進歩は見られていない。
病態解明に関しては、AIREのネガティブセレクションにおける役割とそのメカニズムが明らかにされつつある。
また、AIREは胸腺の他にも末梢リンパ組織などに微量ながら発現しており、免疫寛容に何らかの役割を果たしている可能性がある。
こうした研究が将来本疾患の根治的治療に結びつくことを期待したい。

IPEX (Immunedysregulation, polyendocrinopathy, enteropathy, X-liked syndrome)

1. 原理

胸腺内におけるネガティブセレクションやアネルギーなどによる排除を免れた自己反応性T細胞は調節性T細胞(Treg)よって抑制されている。
ごく少数のTregが他の自己反応性T細胞を抑制していることから優性寛容と呼ばれる。
Treg細胞は自己反応性T細胞を直接接触ないしインターロイキン10などの液性因子を介して抑制すると同時に、T細胞活性化に必要な抗原提示細胞の機能も抑制すると考えられている。
Tregには胸腺内で分化する内因性Tregと、末梢でTGF-β存在下で分化する誘導性Tregがあり、いずれもX染色体上にコードされる転写因子FOXP3がマスター遺伝子として働いている。
したがってFOXP3の変異や欠失はTregの数的ないし機能的欠損をもたらし、多彩な自己免疫疾患やアレルギー反応を呈する。

2. 特徴・症状

X連鎖遺伝形式をとり、男児のみに発症する。
下記に示す種々の症状を呈するが、同一家系内(同一の遺伝子変異)でも症例によりその組み合わせや重症度にばらつきがある。
APECEDと異なり、乳児期より発症するのが特徴である。

1)難治性下痢;自己免疫性腸症

IPEXの主症状をなす自己免疫性腸症は、食物アレルギーや欧米に多いセリアック病と異なり、食事療法・中心静脈栄養や通常の止痢剤に反応しない難治性下痢である。
腸管上皮細胞に対する自己抗体を有し、自己免疫機序による下痢症と考えられている。
一方で、IgE高値はIPEXでしばしば認められ、食物抗原に対するIgE値が高い場合も多い。
主病変は小腸で、下痢は分泌性で容易に電解質異常と脱水を生じる。生後6ヶ月以内に発症することが多く。出生後早期から発症することもある。

2) 内分泌合併症

しばしば自己免疫性甲状腺炎、インスリン依存性糖尿病等を合併する。出生時より著明なケトアシドーシスや高血糖を来たし、早期に死亡する例は先天性あるいは新生児糖尿病として報告されている症例もある。
新生児マススクリーニングで甲状腺機能低下症が発見されることもある。APECEDに多い副腎病変・副甲状腺炎はIPEXでは報告されていない。

3)その他の合併症

血液系合併症として自己免疫性溶血性貧血、血小板減少症、好中球減少症、全身リンパ節腫脹が報告されている。
著明なタンパク尿を呈するネフローゼ症候群(病理組織学的には膜性腎症など)や間質性腎炎等の腎疾患の合併もしばしば認められ、抗腎抗体が検出される症例も報告されている。
皮膚症状としては湿疹の他、乾癬状皮疹、水疱性類天疱瘡、禿瘡が報告されている。

3. 診断

図

小腸生検の組織像は、著明な絨毛の萎縮と粘膜固有層への主として単核細胞を中心とする炎症性細胞の浸潤で、IPEXに特徴的なものではない。
右の図はIPEX患者の小腸組織像。管腔側に正常な絨毛構造は消失し、多数の細胞が浸潤している。

図

免疫学的検査では、血清IgE高値が見られることが多い。自己抗体として、抗甲状腺抗体、抗GAD抗体、抗ランゲルハンス氏島抗体、クームス抗体、抗血小板抗体、抗好中球抗体、抗腸管細胞抗体などがその合併症に応じて検出される。
右の図は患者血清および正常腸管組織を用いた免疫組織染色、管腔側に面した絨毛の表面(刷子縁)が濃染され、この部位に対する自己抗体が証明される(矢印)。

Treg細胞は細胞表面にCD4とCD25 (インターロイキン2受容体α鎖, IL-2Rα)を発現している。
近年、末梢血CD4陽性CD25陽性細胞の細胞質内のFOXP3蛋白の発現を見るフローサイトメトリー法が疾患のスクリーニングにしばしば用いられる。
最終的には責任遺伝子FOXP3の遺伝子解析を行って診断を確定する。

4. 治療法

内分泌疾患に対してはホルモン補充療法が必要となる。
シクロスポリンやタクロリムスなどの免疫抑制剤が単独ないし副腎皮質ステロイド剤との組み合わせで用いられる。
新しい免疫抑制剤シロリムスや大量ガンマグロブリン療法が有効であった症例もある。
根本的治療は造血幹細胞移植である。
初期の治療成績は散々たるものであったが、近年成績は飛躍的に改善してきている。
重要臓器が非可逆的なダメージを受ける前に造血幹細胞移植を行う事が望ましい。

5. 最新情報

最近、IPEX類似の症状を呈しながらFOXP3遺伝子に変異のない症例が報告されており、IPEX-like syndromeと呼ばれている。
また、CD25欠損症でもIPEX類似の症状をきたすことが知られている。
造血幹細胞移植においては骨髄非破壊的前処置による移植も良好な成績を収めており、今後も広く行われることが予想される。

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