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補体欠損症

【監修】
北海道大学
有賀 正先生

補体とは

補体は、血清中と細胞膜上に存在する30種類以上の因子によって構成され、古典経路、第二経路、レクチン経路の3通りの活性化経路が存在する。

図 補体の活性化経路

補体の活性化経路

構成分子としてはC1-C9の成分(C1はC1q、C1r、C1sからなる)、活性化の第二経路に関係するfactor B、factor D、properdin、レクチン経路に関係するmannose-binding lectin (MBL)、MBL-associated serine protease-1, -2 (MASP-1, -2)、補体の活性化を制御するC1 inhibitor (C1INH)、C4 binding protein、factor H、factor I、膜蛋白のdecay accelerating factor (CD55)、membrane cofactor protein (MCP; CD46)、補体レセプターのCR1-4などがあげられ、それぞれの分子の欠損症が補体欠損症のカテゴリーに分類されている。

疾患 機能異常 随伴する所見 遺伝形式 病因遺伝子 頻度
1. C1q欠損症 補体溶血活性欠損、MACの欠陥、免疫複合体の解離障害、アポトーシス細胞クリアランス障害 SLE様症候群、リウマチ様疾患、感染 AR C1q 非常にまれ
2. C1r欠損症 補体溶血活性欠損、MACの欠陥、免疫複合体の解離障害 SLE様症候群、リウマチ様疾患、感染 AR C1r 非常にまれ
3. C1s欠損症 補体溶血活性欠損 SLE様症候群、多様な自己免疫疾患 AR C1s 極めてまれ
4. C4欠損症 補体溶血活性欠損、MACの欠陥、免疫複合体の解離障害、液性免疫反応障害 SLE様症候群、リウマチ様疾患、感染 AR C4A and C4B 非常にまれ
5. C2欠損症 補体溶血活性欠損、MACの欠陥、免疫複合体の解離障害 SLE様症候群、血管炎、多発性筋炎、化膿性感染 AR C2 まれ
6. C3欠損症 補体溶血活性欠損、MACの欠陥、殺菌活性の異常、液性免疫反応障害 反復性化膿性感染症 AR C3 非常にまれ
7. C5欠損症 補体溶血活性欠損、MACの欠陥、殺菌活性の異常 ナイセリア感染、SLE AR C5 非常にまれ
8. C6欠損症 補体溶血活性欠損、MACの欠陥、殺菌活性の異常 ナイセリア感染、SLE AR C6 まれ
9. C7欠損症 補体溶血活性欠損、MACの欠陥、殺菌活性の異常 ナイセリア感染、SLE、血管炎 AR C6 まれ
10. C8α欠損症 補体溶血活性欠損、MACの欠陥、殺菌活性の異常 ナイセリア感染、SLE AR C8α 非常にまれ
11. C8β欠損症 補体溶血活性欠損、MACの欠陥、殺菌活性の異常 ナイセリア感染、SLE AR C8β 非常にまれ
12. C9欠損症 補体溶血活性減弱、MACの欠陥、殺菌活性の異常 ナイセリア感染、SLE AR C8β まれ(日本人ではよくある)
13. C1 inhibitor欠損症 C4/C2の消費を伴う補体経路の自然活性化、高分子キニンからブラディキニン産生を伴う接触システムの自然活性化 遺伝性血管浮腫 AD C1 inhibitor 比較的よくある
14. Factor I欠損症 C3の消費を伴う補体第二経路の自然活性化 反復性化膿性感染症、糸球体腎炎、溶血性尿毒症症候群 AR Factor I 非常にまれ
15. Factor H欠損症 C3の消費を伴う補体第二経路の自然活性化 溶血性尿毒症症候群、膜性増殖性糸球体腎炎 AR Factor H まれ
16. Factor D欠損症 補体第二経路による溶血活性の欠損 ナイセリア感染 AR Factor D 非常にまれ
17. properdin欠損症 補体第二経路による溶血活性の欠損 ナイセリア感染 XL Properdin まれ
18. MBP欠損症 マンノース認識の欠陥、レクチン経路による溶血活性の欠陥 低頻度の化膿性感染症、多くは無症状 AR MBP 比較的よくある
19. MASP2欠損症 レクチン経路による溶血活性の欠損 SLE様症候群、化膿性感染症 AR MASP 極めてまれ
20. Complement receptor 3(CR3)欠損症 表4-5のLeukocyte adhesion deficiency type 1を参照 表4-5のLeukocyte adhesion deficiency type 1を参照 AR ITGB2 まれ
21. Membrane cofactor protein (CD46)欠損症 補体第二経路の抑制、 C3b結合力の減少 糸球体腎炎、非典型的な溶血性尿毒性症候群 AR MCP 非常にまれ
22. Membrane attack complex inhibitor (CD59)欠損症 補体を介した溶血に対して赤血球の感受性が亢進 溶血性貧血、血栓症 AR CD59 極めてまれ
23. 夜間発作性血色素尿症 補体を介した溶血 反復性溶血 後天性XL変異 PIGA 比較的よくある
23. Ficolin 3欠損を伴う免疫不全 ficolin 3経路による補体活性の欠損 反復性重症可能性感染症(主として肺) AR FCN3 極めてまれ

AD, Autosomal-dominant inheritance; AR, autosomal-recessive inheritance; ITBG2, integrin beta-2; FCN3, ficolin 3; MAC, membrane attack complex; MASP-2, MBP associated serine protease 2; MBP, mannose binding protein; MCP, membrane factor complex; PIGA, phosphatidylinositol glycan class A; SLE, systemic lupus erythematosus; XL, X-linked inheritance.

Report of an IUIS expert committee on primary immunodeficiencies: Primary Immunodeficiencies; 2009 update. J Allergy Clin Immunol 124,1161-1178, 2009. から引用

さらに、活性化によって生じる種々の分解産物や複合体が重要な生理作用を引き起こす。補体はもともと抗体の作用を補助し、56℃30分で不活性化される分子として発見・命名されたが、補体の生理作用発現には必ずしも抗体は必須ではない。補体活性化の結果、炎症の惹起、食細胞による貪食作用の増強、溶血・溶菌作用等を引き起こす。補体成分の欠損では、易感染性を示すだけではなく、SLE類似の自己免疫疾患、溶血性尿毒症症候群 (Hemolytic uremic syndrome: HUS)なども発症するが、このことから補体の生理的な役割が浮き彫りとなっている。
原発性免疫不全症としての補体欠損には、病態として補体活性化の欠陥と、補体活性化の制御不全とに分けられる。

補体活性化の欠陥

補体活性化カスケード前半を構成する分子(C1q, C1r, C1s, C4, C2, and C3) の欠損症はいずれも常染色体劣性遺伝疾患で、SLE (systemic lupus erythematosus) 様の自己免疫疾患を発症する。特に、C1q欠損症では90%以上の患者にSLE様症状が認められる。一方C2欠損症、C3欠損症では莢膜を持った細菌に対する易感染性を示す。これに対して後半を構成する分子 (C5, C6, C7, C8α, C8β, C9)の欠損ではナイセリア属の細菌による感染症が好発し、特に髄膜炎菌による化膿性髄膜炎の発症を認める。第二経路に関連するfactor D, properdin(X−連鎖遺伝)などの欠損でも髄膜炎菌の感染が頻発する。

補体制御系の欠陥

補体C3の消費をコントロール補体制御因子であるfactor H、factor I、MCPの欠損では膜性増殖性糸球体腎炎や、再発性の非典型的な溶血性尿毒症症候群を好発する。C1の制御因子であるC1INHの欠損症(常染色体優性遺伝であり、実際には減少症)は補体の古典経路活性化制御が不十分である結果、再発性の血管浮腫を口腔粘膜、咽頭、気道、腸管、顔面、四肢等に発症する。C1INH欠損のためkallikrein-kinin系の制御不全のためにbradykinin系炎症のコントロール不全であるためとされている。これらの補体系の制御不全の一群を自己炎症疾患の範疇に整理統合すべきとの意見もある。

参考文献

Frank MM, Complement disorders and hereditary angioedema. J. Allergy Clin Immunol, 2010; 125: S262-271.
Botto M, et al. Complement in human disease: Lessons from complement deficiencies. Mol Immunol, 2009; 46: 2774-2783.

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