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BLNK欠損症

【監修】
東京医科歯科大学
峯岸 克行先生

無ガンマグロブリン血症のうち、約85%は前述の伴性無ガンマグロブリン血症で、Btkが原因遺伝子である。
残りの15%の約半分は常染色体劣性遺伝のプレB細胞レセプターのシグナル伝達の障害で、残りの半分はいまだ原因が明らかになっていない無ガンマグロブリン血症である。

原理

1. B細胞レセプターのシグナル伝達

B細胞の機能はその膜表面に存在する抗原特異的レセプターであるB細胞レセプターに強く依存している。
生体内に侵入した病原体などの非自己分子は、B細胞レセプターの抗原認識サブユニットの免疫グロブリンにより認識され、抗原特異的B細胞が活性化され、特異抗体を産生する。
B細胞レセプターは、抗原特異的認識とB細胞の活性化に関与しており、免疫グロブリン重鎖、免疫グロブリン軽鎖、Igα、Igβの4分子により構成されている(図1)
B細胞レセプターのすぐ下流に存在するシグナル伝達分子は3つのファミリー(Srcファミリー,Sykファミリー,Btkファミリー)に属するチロシンキナーゼである。
Srcファミリーに属するLyn,Blk,Fynなどが、B細胞レセプターの架橋により活性化されて、Igα、Igβをリン酸化する。
次にSykキナーゼがリン酸化されたIgα、Igβに結合し、リン酸化により活性化される。
SykはBLNKをリン酸化し、PLCγ2、BtkなどのSH2ドメインと結合する。
すなわち、BLNKは、アダプター分子としてSyk,Btk,PLCγ2をその分子上にリクルートすることにより、シグナル伝達を促進している。
次のステップの重要なエフェクター分子が、PLCγ2で、膜に存在するphosphatidylinositol 4,5-bisphosphate (PIP2)を分解してinositiol 1,4,5- triphosphate (IP3)とdiacylglycerol(DAG)を生成する。
IP3は、細胞内小器官の膜表面に存在するIP3レセプターを介して細胞内カルシウムを上昇させ、カルモジュリンーカルシニューリンーNFATのシグナル伝達路を活性化する。
細胞内カルシウムの上昇はさらに、細胞質のPKC(Protein kinase C)を膜へと移動させ、PLCγ2により生成されたDAGにより、PKCはコンフォメーションの変化を誘導されることにより活性化される。
また膜のPIP2は、PI3K(phophoinositide 3-kinase)によりリン酸化を受けてPIP3(phosphatidylinositol 3,4,5-trisphosphate)となる。
これは、BtkやPLCγのPH(plecstrin homology)ドメインを介して、これらの分子を膜のLipid Raftにリクルートする。
このようにB細胞レセプターからのシグナルは、核に伝達され、B細胞に活性化、抗体産生細胞への分化を誘導する。

2.プレB細胞レセプター

未熟なB細胞であるプレB細胞にもB細胞レセプター様の分子が発現している。
プレB細胞レセプターでは、再構成していない免疫グロブリン軽鎖の代わりにλ5とVpreBとからなる代替軽鎖(surrogate light chain)が免疫グロブリン重鎖と結合している。
プレB細胞レセプターは、免疫グロブリン重鎖遺伝子が再構成をした前駆B細胞を選択的に増殖させ、免疫グロブリン重鎖遺伝子の対立遺伝子を排除し、プロB細胞からプレB細胞への分化を誘導し、免疫グロブリン軽鎖遺伝子の再構成の誘導する。
 プレB細胞レセプターのシグナル伝達はB細胞レセプターと同様で、LynがプレB細胞レセプターの架橋によりチロシンリン酸化され、それにより、Syk,BLNK,PI3K,Btk,Vav、PLCγ2などの分子群がLipid raftに移行しチロシンリン酸化される。
このシグナルの異常がB細胞の分化障害をきたし、常染色体劣性遺伝の無ガンマグロブリン血症の原因となる。

3. プレB細胞レセプターの異常により発症する無ガンマグロブリン血症

プレB細胞レセプターは、μ重鎖、VpreB(CD179a), λ5(CD179b), Igα (CD79a), Igβ (CD79b)の5つの分子からなるが、このうち4個(μ重鎖、λ5、Igα、Igβ)で遺伝子異常が常染色体劣性遺伝の無ガンマグロブリン血症の原因となることが明らかにされている(図1)

1.μ重鎖欠損症

プレB細胞レセプターの異常の中で最も頻度が高い。
免疫グロブリンμ重鎖の遺伝子は、第14番染色体長腕の末端、14q32に存在する。
最近の報告によると、典型的な無ガンマグロブリン血症でBtkに突然変異のないもの40家系の検討を行い、そのうち12家系にμ重鎖の遺伝子異常が存在した。
このうちの多くが、分泌型免疫グロブリンから膜型免疫グロブリンへのスプライシングサイトの-1の部位に点突然変異で、ハプロタイプの検討により、この変異は、founder効果によるものではなく、この部位が突然変異のhot spotであると考えられた。
μ重鎖欠損症の臨床的な特徴として、伴性無ガンマグロブリン血症と比較して、その発症が早く、合併症の頻度も高い傾向が認められた。
すなわち、30%以上の症例で、重症のエンテロウイルス感染症を合併し、20%の症例の初発症状は、敗血症であった。
しかし、免疫グロブリンの補充療法開始後は、臨床経過に特に問題は認めない。
μ重鎖欠損症は、頻度の面からも、臨床的重症度の面からも、伴性無ガンマグロブリン血症についで2番目に重要な無ガンマグロブリン血症の原因である。

2.Igα(CD79a)欠損症

Igαは前述のプレB細胞レセプターの構成要素のひとつで、染色体上の19q13に存在し、5つのエクソンでコードされている。
エクソン1と2は細胞外領域をコードし、エクソン3は膜貫通領域、エクソン4,5は細胞内領域をコードしている。
これまでに2例のIgα欠損症が報告されているが、1例は、エクソン3のアクセプターサイトの突然変異、もう一例はエクソン2のスプライスドナーサイトのいずれもホモの突然変異であった。
臨床像は、前述のμ重鎖欠損症と同様で、比較的重症の無ガンマグロブリン血症を呈するものと考えられる。
末梢血中にCD19陽性のB細胞はほとんど存在せず、骨髄中ではプロB細胞は存在するものの、プレB細胞はほとんど存在しなかった。
骨髄中のmRNAの検討で、TdT, Rag1, VpreB、λ5などのプロB細胞に特異的な遺伝子の発現量には、異常は見られず、ヒトにおいては、IgαはプロB細胞では必要でなく、マウスとの間に何らかの差異がある可能性が示唆された。

3.Igβ(CD79b)欠損症

IgβもプレB細胞レセプターの構成要素で、染色体上の17q23に存在し、6つのエクソンからコードされている。
エクソン1から3は細胞外領域をコードし、エクソン4は膜貫通領域、エクソン5,6は細胞内領域をコードしている。
報告されているIgβ欠損症は、エクソン3のコーディング領域のコドン80のホモのCAGからTAGへの変異で、アミノ酸ではグルタミンが終止コドンになる。
臨床像は、前述のμ重鎖欠損症、Igα欠損症と同様で、比較的重症の無ガンマグロブリン血症を呈するものと考えられている。
末梢血中にCD19陽性のB細胞はほとんど存在せず、骨髄中ではプロB細胞は存在するものの、プレB細胞はほとんど存在しなかった。
この変異を有するIgβ分子はIgβを欠損する細胞中に発現させても、Igαと結合できず、またB細胞レセプターの発現も誘導できないことが明らかにされている。

4.λ5欠損症

λ5もプレB細胞レセプターの構成要素で、その欠損症が報告されている。
λ5遺伝子は染色体の22q11にあり、3個のエクソンから構成される小さな遺伝子である。
症例は母方のアレルはエクソン1のナンセンス変異であり、父方のアレルはエクソン3の33塩基中にとびとびの3塩基の置換が見られ、そのうち最初の2つのものはサイレント変異であるが、最後のものが、アミノ酸のプロリンをロイシンに置換する。
この3bpの置換は、λ5の偽遺伝子16.1の配列と同一であり, それ以外の塩基配列は全く同一であることより、gene conversionによりこの突然変異が起こったものと考えられる。
この変異のin vitro機能解析により、λ5の免疫グロブリンドメインの折りたたみ、細胞外への移行が障害されることが示されている。
λ5欠損マウスは、Btk欠損マウスと同様に程度の軽いB細胞の分化障害を呈するが、ヒトにおいては、λ5欠損症はBtkを欠損するXLAと同様にほぼ完全なB細胞の分化障害を呈した。
これまでのところVpreBの異常による無ガンマグロブリン血症は発見されていない。

4. プレB細胞レセプター下流のシグナル伝達異常により発症する無ガンマグロブリン血症

1.BLNK欠損症

プレB細胞レセプターの下流のシグナル伝達分子、BLNKの異常によっても無ガンマグロブリン血症が発症する。
BLNK欠損症の患者は、イントロン1の+3スプライスドナー部位のA→T変異を有していた。
患児には血族結婚の家族歴はないもの、ホモの突然変異を有していた。
患児の骨髄細胞中にはプロB細胞に発現しているBtk、TdT、λ5などの遺伝子の発現は見られたが、BLNKの転写産物はRT-PCRでも全く検出されなかった。
患児は、20才の男性で免疫系以外の発育発達に特に問題を認めなかった。
生後8カ月より反復性の中耳炎に罹感し、2度目の肺炎罹感後の生後16カ月で無ガンマグロブリン血症の診断をうけた。
免疫グロブリンの補充療法が開始され、その後は良好に経過した。
家族歴で、兄が生後6カ月より反復性の中耳炎に罹感、生後16カ月で緑膿菌性敗血症で死亡しており、確定診断はされていないものの、同一のBLNK欠損症を発症していたものと考えられる。

症状

常染色体劣性遺伝の無ガンマグロブリン血症の患児では、母親からの移行抗体の減少する生後2カ月頃より、遅くとも5才までに発症し、中耳炎、副鼻腔炎、肺炎などの細菌感染症を反復する。
特にμ重鎖欠損症においては、早期に重症の感染症を引き起こすので、乳児期の重症感染症、敗血症の患児では、その基礎疾患として無ガンマグロブリン血症がないことを除外することが重要である。
起炎菌としては、莢膜を有するインフルエンザ桿菌や肺炎球菌が多く、これは血清中の免疫グロブリンによるオプソニン化がこれらの感染症の生体防御に重要であるためである。
その他の感染症の原因因子としては、エンテロウイルス、マイコプラズマ、ランブル鞭毛虫が重要である。

診断

身体所見では、リンパ節を触知しないこと、口蓋扁桃が著明に小さいことが重要である。
検査所見は、伴性無ガンマグロブリン血症と同様であるが、血清中の免疫グロブリンが著しく減少しており(IgG<200mg/dl, IgA<20mg/dl以下, IgM<20mg/dl以下)、免疫学的には特異抗体が欠損している。
フローサイトメトリーで、末梢血中のCD19陽性のB細胞が著減している。
薬剤性や感染性の2次性のB細胞減少症を除外診断し、common variable immunodeficiency, hyper-IgM syndromeなどと鑑別診断する必要がある。
伴性無ガンマグロブリン血症との鑑別は、性別、家族歴、B細胞欠損の重症度(末梢血、骨髄細胞)、単球を用いたBtkタンパク発現検査、B細胞のX染色体不活化検査、遺伝子検査などにより行う。
骨髄のB細胞分化は、完全にプロB細胞(CD19+CD34+sIg-)からプレB細胞(CD19+CD34-sIg-)への移行段階で停止している。

治療法

1.ガンマグロブリン補充療法

ガンマグロブリンの補充が治療の中心で、最も重要な治療である。
疾患を早期に診断し、気管支拡張症などの器質的な肺病変が生じる前に治療を開始したほうが治療に対する反応性がよいので、早期発見、早期治療開始が重要である。
その詳細は、伴性無ガンマグロブリン血症を参照。

2.抗生剤の投与

その他の免疫不全症と同様に、この無ガンマグロブリン血症においても、感染症罹患時の抗生剤の投与は必須である。
肺の器質的変化を予防するために、感染症の早期診断、早期治療開始が重要である。

図1 プレB細胞レセプター複合体の構造とその下流のシグナル伝達分子群

図1

これまでに同定されている、無ガンマグロブリン血症の原因遺伝子は青色で示す。

図2 B細胞分化の模式図

図2

上段より、B細胞分化のステージ、そのマーカー、各ステージでの免疫グロブリン遺伝子再構成、B細胞レセプターの状態を示す。幹細胞が、CLP(common lymphoid precursor)より分化して、B細胞系列にコミットしてプロB細胞となり、CD19を発現するようになる。このステージで免疫グロブリンμ重鎖の再構成とプレB細胞レセプターの発現が起こる。このレセプターを介した刺激によりプロB細胞からプレB細胞への分化が起こる。プレB細胞ステージでは免疫グロブリン軽鎖の再構成が起こり、レセプターがプレB細胞レセプターから成熟型のB細胞レセプターに変化する。BCRからの適切なシグナルによりプレB細胞は未熟B細胞へと分化し、骨髄より末梢に移行する。未熟B細胞においても、B細胞レセプターの抗原特異性が評価され、自己反応性のレセプターなどは除去され、抗体レパトアが完成する。それぞれのステージで不適切なシグナルを生成した抗原レセプターを有するB系列細胞は、アポトーシスにより除去される。成熟B細胞は活性化されてGC(Germinal center)B細胞となり、さらに形質細胞または、メモリーB細胞へと分化する。

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