HOME > ドクターインタビュー > vol.04 小林 正夫 先生

ミニ移植の導入により、造血幹細胞
移植の成績が大きく改善。
移植のタイミングは今後の課題に

広島大学大学院

医歯薬学総合研究科長/小児科学教授

小林 正夫 先生

小林 正夫 先生

2009/08/20UP

慢性肉芽腫症および好中球減少症の患者さんが中心

広島大学の小児科では、原発性免疫不全症候群の中でも食細胞異常症(慢性肉芽腫症および先天性好中球減少症)の患者さんが多いのが特徴です(表)。慢性肉芽腫症は好中球が働かない病気で、先天性好中球減少症は好中球がない、または非常に少ない病気です。いずれの病気も、細菌またはアスペルギルスやカンジダなどの真菌(かび)による感染症を繰り返す,予後不良の病気です。
慢性肉芽腫症には4つのタイプがあり、そのうちのひとつが男子に多いため慢性肉芽腫症の約8割が男子です。一方、好中球減少症では男女差はありません。

【表:広島大学の原発性免疫不全症候群の患者さん 】

病気の種類 人数
X連鎖無ガンマグロブリン血症 3名
高IgM症候群 1名
分類不能型免疫不全症 3名
Wiskott-Aldrich症候群 1名
慢性皮膚粘膜カンジタ症 1名
慢性肉芽腫症 16名(移植12名)
先天性好中球減少症 6名
周期性好中球減少症 3名(移植後1名)
IFN-γ-IL12経路異常症 3名
家族性血球貪食症候群 2名
外胚葉形成不全免疫不全症候群 2名

2009年6月現在

ページTOPへ

患者さんと一緒に、ベストな治療について考えていきたい

慢性肉芽腫症および好中球減少症などの食細胞異常症の治療は、2つに分けて考える必要があります。ひとつは感染症の予防、もうひとつは完全に病気を治す根治療法です。
好中球減少症の感染症予防のための治療としては、1992年から使用できるようになった好中球を増やすくすりであるG-CSFがあります。G-CSFにより約95%の患者さんで好中球の増加がみられ、その結果、予後が大きく改善しました。ただし、このくすりは長期間使用していると高頻度に白血病や骨髄異形成症候群に進展することがわかってきたため、G-CSFを使用して感染症を予防しながら、適切な時期に造血幹細胞移植を行う必要があります。

患者さんと一緒に、ベストな治療について考えていきたい

一方、慢性肉芽腫症の感染症予防には、ST合剤(抗生物質)やインターフェロンγが有効です。根治療法としては、2000年代に入り骨髄非破壊的造血幹細胞移植(ミニ移植)が導入され、慢性肉芽腫症の移植の成績は飛躍的に向上しました。慢性肉芽腫症の患者さんの多くは、肺炎を何度も起こしているため臓器障害が生じやすく、通常の造血幹細胞移植の前処置として行われる厳しい化学療法に耐えられない方が多かったのですが、穏やかな前治療で済むミニ移植の導入により、移植治療が非常にうまく行くようになりました。当院でも2002年よりミニ移植を導入し、現在まで12例に行い,良好な成績を得ています

ページTOPへ

大きな問題。造血幹細胞移植に踏み切るタイミング

慢性肉芽腫症や好中球減少症を治療するうえで、私たち医療者側にしても、ご家族にしても、一番悩むのは、どのタイミングで造血幹細胞移植に踏み切るか、という点です。先にお話ししたように、どちらもある程度感染症をコントロールできるので、くすりさえきちんとのんでいれば、ごく普通に日常生活を送ることが可能です。そのような中で、なぜあえて造血幹細胞移植という非常に厳しい、リスクの高い治療を行わなければならないのか、と考え、なかなか移植に踏み切れないのは当然といえますが、やはりよりよいタイミングで移植を行うことは非常に重要であると考えています。というのは、私自身、移植のタイミングで明暗を分けた患者さんを経験したからです。どちらも慢性肉芽腫症の患者さんだったのですが、1人目は、移植を決断して骨髄バンクに登録した矢先に多発性脳膿瘍という重い感染症にかかり、移植を目前に控えながら命を失ってしまいました。

大きな問題。造血幹細胞移植に踏み切るタイミング

無菌室前の小林先生

それから1年もしないうちに、やはり多発性脳膿瘍にかかった慢性肉芽腫症の患者さんが来院したので、脳膿瘍を患ったままですぐに移植を行い、命を取り留めました。この経験から、将来を考えると、重い感染症や臓器障害を起こす前に、早めに造血幹細胞移植を含めた根治療法を考え始めたほうがよいと思います。

ページTOPへ

今後は遺伝子治療とiPS細胞を応用した細胞療法に期待

今後は、根治療法のひとつとして、遺伝子治療が進歩するでしょう。遺伝子治療と造血幹細胞移植の両方を上手に使用することで,根治療法が安全に行える日が来るだろうと思います。また,ヒト人工多能性幹細胞(iPS細胞)を用いた細胞療法もいずれ確立されるでしょうから,根治療法の選択肢が拡がることにもなります。患者さんの年齢や臓器障害の状態に応じて,一番安全な治療法が選択できるようになりますから,移植の時期等,治療のタイミングを迷うことが少なくなるでしょう。

ページTOPへ

そのときそのときで最適と思われる治療を、よく話し合いながら選択していくことが重要

食細胞異常症は将来の展望が描きづらい病気なので、わたしたち医療者側もなかなか的確なアドバイスができなのが、非常に悩ましいところです。今できる最善のことは、そのときそのときでもっともよい治療法を、患者さんやそのご家族と一緒に考えていくことだと思います。その際に重要なことは、患者さん側が、100%本音を話せることです。当院では、患者さんが自分の気持ちをうまく伝えられるよう、臨床心理士に相談できるシステムを整えています。また最近では、セカンドオピニオンが一般的となってきていますので、治療に迷ったときは、積極的にセカンドオピニオンを求めてみるのもよいと思います。また、患者会への参加もお勧めします。同じ悩みをもつ者どうしで交流できる患者会への参加も、自己決定の一助になるのではないでしょうか。これらをうまく利用して、十分納得のいく治療を選択していただきたいと思っています。

ページTOPへ

企画・制作:
e-免疫.com運営事務局