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免疫グロブリン製剤の安全性

人の血液から作り出される医薬品を総称して「血液製剤」と呼びますが、大別すると「全血製剤」「血液成分製剤」と、血漿成分を大量にプールして治療に有用なタンパク質を精製した「血漿分画製剤」に分けることができます。原発性免疫不全症の患者様に使用される代表的薬剤である免疫グロブリン製剤は血漿分画製剤に分類されます。人の血漿から製造されることから、原料血漿採取に始まり製造工程、最終製品に至るまでウイルス等混入のリスクを可能な限り低くするため様々な安全対策がなされています。下の図は「血漿分画製剤」全般の安全対策を表現したものであり、前述の「全血製剤」「血液成分製剤」と比べ様々なウイルス不活化・除去工程の採択が可能であることから、ウイルス感染に対する安全性は非常に高いと考えられています。

総合安全対策へのアプローチ

それでは以下にその各過程において通常採択されている安全対策について述べます。
(免疫グロブリン製剤を製造している製薬会社は国内、国外ともに複数存在します。それぞれの製造会社・薬剤により安全対策が異なる点はご了承ください。)

① 原料血漿のスクリーニング~供血者(ドナー)の選択から原料となるプール血漿の検査

供血者は医学的な問診に対する回答および簡単な健康診断に基づいて健常な供血者のみが選択されます。供血は各国の赤十字社施設や認定された(例えば米国であればFDAが認可)民間の血液採取施設で行われており、各国の規制当局の要件に従って実施されます。個々の供血者に対してB型肝炎ウイルス(HBV)、C型肝炎ウイルス(HCV)、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)等に対する血清学的検査、その他生化学的検査が行われます。合格した原料血漿の試験サンプルはその後数十人から数百人単位でプールされ、核酸増幅検査(NAT)によりB型肝炎ウイルス(HBV)、C型肝炎ウイルス(HCV)、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)等に対する検査が実施されます。ウイルスの感染初期においては、生体はまだウイルスに対する抗体を産生していないため、ウイルス自体ではなく抗体を調べる(ウイルスによっては抗原検査も実施しています)血清学的検査はごく少数ながら感染の可能性は残存します。この期間に採血を行うと血清学的検査では陰性でも、血液中にはウイルスが存在しているというリスクがあります。この血清学的検査のウインドウ期(空白期間)の血漿を排除するのに有効なのが、核酸増幅検査です。核酸増幅検査はウイルスの遺伝子(核酸)の特定部分を試験管内で人工的に複製して増やし、高感度に検出できる検査法です。この方法により感染してから抗原や抗体が検出できる量になる前の期間(空白期間=ウインドウ期)を短縮することができるようになったため、安全性は飛躍的に向上しました。もちろんこの方法でも検出限界というものがありますので、ウインドウ期のリスクは残ります。そこでさらに採用されているシステムがインベントリーホールド(貯留保管)と称されるものです。採血された血漿は、凍結状態で通常60日間のインベントリーホールドに入ります。インベントリーホールドの期間中にドナーの資格が何らかの理由で停止された場合、保管されているそのドナーの血漿は出荷から除外され廃棄されます。ウイルスマーカー等が陽転した供血者に対しては、遡及調査(検査結果が陽性になった時点で、所定の期間遡って調査し、遡及調査期間に採血し倉庫保管してある血漿は全て廃棄されます。)や追跡調査(陽転したドナーがそれ以降、供血していた場合も当然それらは廃棄され、供血者は停止者リストに載せられます。)の手続きが取られます。
ここまでの試験に合格すると次は更に多くの数千~数万人分単位でまとめられた血漿が製造工程に進みます。この製造プール血漿に対してもB型肝炎ウイルス(HBV)、C型肝炎ウイルス(HCV)、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)等に対する核酸増幅検査が実施されます。各過程におけるウイルス等検査については各国の規制当局により必ず実施すべきウイルスの種類などが決められていますが、通常各製造会社はそれを上回る種類の検査を実施しています。

② 製造工程におけるウイルスの除去・不活化

製造工程におけるウイルスに対する安全性を高める方法としては、作用様式により大きく「除去」、「不活化」に分けることができます。

表1 ウイルス除去・不活化のメカニズム

メカニズム 方法 この方法が有効なウイルス
除去 沈殿法 表面特性(電荷/疎水性、等々)に応じたウイルス
クロマトグラフィー  
ろ過 あらゆるウイルス、サイズ次第
不活化 S/D 有エンベロープウイルス
カプリル酸塩  
低pH法 有エンベロープウイルスa
低温殺菌 有エンベロープウイルスおよび多くの無エンベロープウィルス
乾熱法 有エンベロープウイルスおよび多くの無エンベロープウィルス
UVC 多くのウイルス、ただし有効性はまちまち
γ線照射  
化学修飾  

aB19ウイルスにも有効
S/D=有機溶媒-界面活性剤、UVC=紫外線C

除去

1)沈殿法

免疫グロブリン製剤などの血漿分画製剤は低温エタノール分画法と呼ばれる方法により分離精製されますが、この過程でウイルスの感染力が低減されます。この方法は1941年に米国ハーバード大学のコーン博士により開発された方法で、低温下でエタノール濃度、pH等を調整することにより血漿から、グロブリンなどの血漿タンパクを次々に分離させていく工業的な方法です。この方法は現在も世界のほとんどの血漿分画製剤メーカーによって採用されています。実はこの血漿の相分離にはウイルスの分配も伴い、後に廃棄される分画への分配は安全性を高めることになります。例えばB型肝炎の原因となるHBs抗原が免疫グロブリン製剤の原料となる分画には全く含まれなかったということが、モデル実験で証明されています。またエタノールによるウイルスの物理化学的不活化や凍結中(製造中流通上の理由のためタンパクを含む沈殿はある段階で凍結されます。)にエタノールの存在によって起こる凍結損傷も作用しています。

図1 分配によるウイルス排除

一定の物理化学特性によってフラクションを保持することにより、生物学的混和物を分離できるのであれば必ず分配を実現できる。

2)クロマトグラフィー

クロマトグラフィーを通すことによりウイルスを吸着・除去させる方法です。その除去能はウイルスの表面特性、クロマトグラフィー樹脂、溶液の組成(pH、塩、等々)によって決まります。

3)ろ過

ろ過は、血漿から血液感染病原体を除去するのに長年利用されてきました。フィルターによる除菌または病原体ろ過により、細菌および真菌は除去されます。この処理方法は極めて有効なので、大腸菌などの細菌(ほぼ1~5ミクロンの大きさ)より、更に1桁も2桁も小さいナノメートル単位のウイルスを除去するための、十分小さい孔径のナノフィルターが開発され現在使用されています。有エンベロープと無エンベロープのウイルスを区別せず、他の方法で不活化できなかったウイルスの除去も期待できます。

図2 サイズに基づいたウイルスの除去:ウイルスろ過の原理

不活化

表1には様々な不活化の方法が記載されています。列記してある方法の採択は製品によって異なります。ウイルスには様々なタイプのものがありますが、イメージとしては以下の図のようになります。

図3 一般的に使用されているウイルス不活化法

  1. 1) 低温殺菌処理:ウイルスを不活化する処理はタンパクも変性させてしまうことがあります。立体構造がごくわずか変化しただけで生物学的活性を失ってしまうタンパクもあります。タンパクそれぞれの変性温度は厳密に決まっており、個々のタンパクによって異なります。一部のタンパク精製処理では、ウイルスを不活化するのに当該タンパクの変性温度よりわずかに低い温度で一定時間だけ加熱するようにしています。低温殺菌法は多様な血漿分画製剤において、もっぱらエンベロープがあるウイルスを不活化するのに用いられていますが、一部のエンベロープが無いウイルスにも有効です。
  2. 2) 加熱処理:加熱は種々な条件で熱を加えることにより、有エンベロープウイルスと無エンベロープウイルスを不活化する方法です。60℃、10時間液状加熱という処理が1948年頃から同じく血漿分画製剤で熱に安定なアルブミン製剤について実験的に導入され、この加熱処理をされたアルブミン製剤が血清肝炎を伝播しないことが臨床経験で実証されています。
  3. 3) 低pHウイルス不活化法:限られた量のペプシン存在下および非存在下で、有エンベロープウイルスが低pH(例、pH4)条件で不活化することを明らかにした報告が多数あります。最近では無エンベロープウイルスでもこうした条件の影響を受けるという報告もみられます。この方法は主として有エンベロープウイルスの膜関連糖タンパクまたは無エンベロープウイルスのカプシドタンパクといった、ウイルス構造タンパクの立体構造の変化に基づくものです。
  4. 4) 有機溶媒および/または界面活性剤によるウイルス不活化法:脂質エンベロープを有する血液感染ウイルスは、有機溶媒や界面活性剤など脂質を溶解または分離させる化学物質による不活化を受けやすいという性質を持ちます。タンパクも有機溶媒や界面活性剤によって変性されうるものの、低温度で限られた期間だけ曝露すれば、タンパクの構造や機能に重大な有害作用が生じないようにすることができます。1990年代前半に静注用免疫グロブリン製剤でC型肝炎伝播の報告がありましたが、その後複数の製剤がこの工程を採用しています。カプリル酸塩は、ウイルスの脂質エンベロープを壊すことによって有機溶媒-界面活性剤処理と同様の働きをします。

③ バリデーション試験

血漿分画製剤を製造する会社に対しては、各製品に対してその工程において伝播リスクの高いウイルスが不活化 / 除去されることを確認するためのバリデーション試験の実施が義務付けられています。この試験は実際に製造プラントで使用される工程を慎重にスケールダウンし、原料となる血漿プールに実際に混入する可能性がある、またはそのモデルウイルスを添加して分画工程全体でその分布を追跡していき、得られた各分画中のウイルスの存在を定量していきます。各製造工程を経るにつれて減少するウイルスを対数減少値として算出します。最終的に各々の対数減少値を加算して累計対数減少値を求めます。当然のことながら分画工程は規模による影響を受けないことが確認されています。これらの値に対しても通常各国の規制当局により満たすべき基準を設けたガイドラインが制定されています。

最終製品検査

最終製品に対しても各種ウイルスに対する検査を実施し安全確認しています。

以上、免疫グロブリン製剤の安全性確保の現状についてご紹介しましたが、

  • 原料血漿を選択し、ウイルスが検出されないことを検査で確認
  • 製造工程にウイルス除去、または不活化の工程を組み込む
  • 製造工程の適切な段階においてバリデーション試験を行い、ウイルスが不活化 / 除去されることを確認

を基本とし、時代の推移とともに新しい技術を導入してきました。この姿勢は今日では各製造会社とも共通であり、更なる免疫グロブリン製剤の安全性の向上も期待できる状況にあります。

参考文献:Nicola Boschetti, Christoph Kempf et al, (2005) Clinical reviews in allergy & immunology 29 333-344
社団法人日本血液製剤協会ホームページ

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